地理的には非常に遠く離れた日本とフィンランド。
「日本語とフィンランド語には似ている部分がいくつかある」と聞いたら驚くでしょうか? フィンランド語を始めて3年になる僕でも驚いたこともあります。
ここでは発音から文法まで、日本語とフィンランド語の共通点と全く違う点を紹介します。
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日本語とフィンランド語の似ているところ
発音が似てる?
フィンランド語と日本語は発音が似ていると言われます。
フィンランド語は母音が強いとかも聞きますが、「どれだけ開音節言語か」という点では、正直フランス語やスペイン語に軍配があがると思われます。
フィンランド語は英仏独よりも子音が塊になりづらいので、そういう点で日本語っぽく聞こえるのかも。
そんな曖昧なものよりも、もっとちゃんと日本語とフィンランド語に共通しているのが、「母音と子音の長短を区別する」こと。長い母音はそのまま「あー」にような長い母音ですが、長い子音とはいわゆる促音、「小さいツ」のついた音です。
日本語では「事」と「孤島」は違う単語だし、「肩」と「勝った」や「ハマー」と「ハンマー」も区別されます。
フィンランド語でもこれは同じ。例えばtuli「火」とtuuli「風」、kuka「誰」とkukka「花」、päätä「頭を」とpäättää「決める」といった単語は別の単語として認識されます。
英語では母音の長短は区別される(諸説あります)ものの、短い子音と長い子音はほぼ区別されません。子音と母音の長短が、日本語とフィンランド語で共通して区別されるのは興味深いですね。
フィンランド語の日本語みたいな単語
前項で「フィンランド語と日本語の発音は似てるなんて曖昧」と切り捨てましたが、確かにフィンランド語には日本語のように聞こえる単語はあります。
基本的な単語ではkani(カニ、「鶏」)、kana(カナ「鶏」)、susi(ススィ「狼」)、sika(スィカ「豚」)、nainen(ナイネン「女性」)、kivi(キヴィ「石」)などなど。
固有名詞や個人名でも、Jouko(ヨウコ、ただし男性名)、Mika(ミカ、ただし男性名)、Aki(アキ、ただし男性名)、Riku(リク、男性名)といった日本人のような名前があります。
フィンランドの北半分であるラップランド地方のさらに北には、Inari(イナリ)という地名もあります。日本人に有名なオーロラリゾート・サーリセルカがある地名で、発音も日本語の「稲荷」にそっくり。
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似ている文法規則もある
フィンランド語版「てにをは」
「フィンランド語と日本語は同じ部類の言語」と言われます。
それは、ある面では正しくて、その他の面では全く間違いです。そもそも何に関して「同じ部類」なのか不明なわけですが。
ただフィンランド語も日本語も「膠着語」というグループの言語という面では共通しています。
膠着語(こうちゃくご)とは、単語に色々な小さいものをくっつけて意味を足していくタイプの言語のこと(厳密にはこれでは100%正しくないのですが、まあいいでしょう)。
どちらの言語も「膠着語というグループである」ということなら、似ていると言っても差し支えないかと(全く同じではありませんが)。
日本語では「てにをは」といった助詞や動詞の活用語尾を、どんどん後ろにくっつけていって意味を付け足していきます。
フィンランド語も同じで、名詞や形容詞、動詞にも助詞のようなものを付け足していきます。
- talo talo-n talo-ssa talo-sta
- 家が、家-の、家-で、家-から
- kynä, kynä-n, kynä-llä, kynä-ksi
- ペン、ペン-の、ペン-で、ペン-として
動詞の活用のしかたも、日本語もフィンランド語も基本的に、語幹の後ろにどんどんくっつけていくやり方ですね。もっとも、何をどの順番でくっつけるかは違うのですが。
- 見る(原形)、見た、見よう、見ている
- katsoa(原形)、katso-i-n(私は見た)、katso-taan、katso-va
日本語では後ろからくっつけるものでも、フィンランド語ではそうでないものもあります(「見ない」とen katsoとか)。
小さな違いは置いておいても、こんな風に「単語に何かをくっつけていく言語=膠着語」というくくりにおいては、日本語とフィンランド語は似通っているといえます。
日本語みたいな語順になることも
中学英語で習った関係代名詞を覚えていますでしょうか。whichとかwhoとか、さらにはもっと分かりにくい関係副詞とか出てきて。僕はかなり苦戦した覚えがあります。
先行詞とかいう単語の後ろにwhichとかをつけて、そこから文を続けていくというのに、なかなか慣れることができませんでした。
日本語には、後ろから意味を補足するような関係代名詞はありません。その代わりに、「本を読んでいる男の子」のように「本を読んでいる」という文を「男の子」の前に置くことで、関係代名詞のような構成の文をつくることができます。
実はフィンランド語は、英語のように関係代名詞を使った「後ろに置く」文と、日本語のような「前に置く」文の両方を作ることができます。
先ほどの「本を読んでいる男の子」はkirjaa lukeva poikaとなります。kirjaaが「本を」でlukevaが「読んでいる」なので、日本語の語順そのままですね。
ほかにも「あそこで走っている男の子」ならtuolla juokseva poika(tuolla=あそこ、juokseva=走っている)、「ヘルシンキから来た男の子」ならHelsingistä tullut poika(Helsingistä=ヘルシンキから、tullut=来た)。
ただ、1つ注意点が。
厳密に言うとフィンランド語のlukevaとかtullutは厳密に分詞(participle)と呼ばれるもの。英語で言うreadingとかhaving comeなどといった部類。
なので、フィンランド語では、その分詞が形容詞の要領で名詞を修飾するというスタイルなのです。先ほどのtuolla juokseva poikaなら、poika「少年」をjuokseva「走っている」が形容詞的に修飾している感じ。
日本語は名詞の前に文をそのままくっつけられる言語なので、日本語では作れてもフィンランド語では作れない文があったりします。
たとえば、「私がフィンランド語を教えた学生」なんかは、opiskelija, jolle opetin japaniaと関係代名詞を使って「後ろに置く」文でしか表現できません。
opiskelija, jolle opetin japaniaを分解すると、
- opiskelija = 学生(student)
- jolle = ~に(to which)
- opetin japania = 私が教えた
……となります。英訳すればstudent to which I taught Japaneseですね。
同じなのは見かけの語順だけ、しかも例外あり、ということに注意してください。
「~には……がある」構文がフィンランド語にもある
フィンランド語の所有構文は、ちょっと特殊。
英語やフランス語では「持つ」という意味と動詞(have、avoir)を使ってI have a pen.やJ’ai un stylo.のようにしますが、一方フィンランド語にはhaveに該当する動詞が存在しないのです。
その代わりにどうするかというと、持っている人つまり主語の名詞を変化させる+be動詞を使います。「私はペンをもっている」はMinulla on kynä.になります。
Minullaは「私」を意味するminäの変化形で「私(の上)に」、onはbe動詞の3人称単数形、 kynäは「ペン」です。直訳すれば「私(の上)にはペンがある」ということ。
さて、似たような構文をどこかで見たことがあると思いませんか。
そう、日本語の所有構文です。「私には子どもがいる」とか、「彼にはお金がある」とかないとか。この構文では、「持つ」という動詞は使わず、「(主語+に)+モノ+ある/いる」というかたちになります。
どうでしょう、語順こそ少し違いますが、構成要素はほとんど一緒です。面白いですね。
(ちなみにフィンランド語で「彼には子どもがいる」はMinulla on lapsi/lapset、 「私にはお金がある/ない」 は Hänellä on/ei ole rahaa)
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日本語とフィンランド語の似ていないところ
さて前の項目でフィンランド語と日本語の似ているところを紹介しましたが、この2言語、基本的に上で挙げた意外の点では似てないです。まあ、違う言語ですからね。
日本語にないフィンランド語の発音
フィンランド語には日本語にない発音があります。
たとえば母音ならä、ö、yの3つ。äは舌の前の方で発音するアで、öはエと言いながら唇を丸めた音。yはイと言いながら唇を丸めると出る音です。
フィンランド語には下の奥で発音するアもあるので、アが2つあることになります。
子音では、LとRの区別があることくらい。Lは英語と同じですが、Rは巻き舌です。
フィンランド語にない日本語の発音
フィンランド語には有声破裂音と有声摩擦音が基本的にありません。
有声というのは発音するときにのどが振動する音。濁点のついた音がそうですね。
破裂音は舌や唇で一回空気の流れを止めて発音するもの、摩擦音は流れを止めないけど阻害することで発音するもの。
つまりフィンランド語には、ガ行、ザ行、ダ行……(以下省略)の音がありません。例外的に、Vの音だけはあります。
そう聞くと「フィンランド語アルファベットにDがあるじゃないか」と思われるかもしれません。ただフィンランド語のDは、ちゃんとDとして発音しない人が多いんです。
ただ有声音は、最近英語やスウェーデン語から入ってきた言葉(bussiやdarraなど)にあったりしますので、完全に存在しないわけではないのですが。
あとはWの音、ワ行もありませんね。「ツ」の音は、方言によってあったりなかったりです。
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似ていないフィンランド語と日本語文法
上に挙げた以外は全て似ていないので、基本的なところだけをあげていきます。
単数と複数の区別
日本語を母語とする方は、英語を習いたての頃、さぞ単数形と複数形に苦労したことでしょう。僕がそうだったので。
日本語の文法に「数」の概念はありませんが、フィンランド語にはしっかり単数と複数の区別があります。
もっともこれは日本語が数を数えられない言語であるという訳でなく、あくまで文法の要素として数を区別するかどうか。ものが単数か負数化で名詞の形が変化するか否かということですね。
フィンランド語では他の大多数のヨーロッパ言語同様、主語の単複が動詞の形にかかわってきたりします。
しかも単数複数、そして可算か不可算かで目的語の形が変わってしまうので、正直数においては英語よりややこしいです。この辺りは「フィンランド語は難しい言語か否か?」で詳しく説明しています。
多すぎる格変化
フィンランド語の文法には日本語のような「てにをは」があると言いました。
フィンランド語では「家が(talo)」「家を (talo-n) 」「家から(talo-sta)」といった変化形を格と呼ぶのですが、この「格」の数が桁違いに多いです。
日本語の格はウィキペディアの数え方によれば10個くらいでしょうが、フィンランド語には数え方に寄りますが14種類あり、それに複数形も加われば26種ほどになります。
ヨーロッパ語の格についてはドイツ語なら8つ、ラテン語やロシア語なら12あります(単複含め)。格の数ににおいてはフィンランド語の圧勝ですね。
フィンランド語の格については「結局、何個あるの?「悪魔の言語」フィンランド語の格変化のまとめ」でまとめていますのでご興味があればご覧ください。
格変化に関連してもう一つ大切なのが、形容詞や数詞も一緒に格変化するということ。「赤いリンゴ」「3つのリンゴ」のようにとある名詞を形容詞や数詞が修飾していて、名詞(ここでは「リンゴ」)が格変化した場合、形容詞(「赤い」)も同じ形に変化します。
- punainen omena「赤いリンゴ(主格)」→punaisen omenan「赤いリンゴの(属格)」
- kolme omenaa「3つのリンゴ」→kolmen omenan「3つのリンゴの」
とこんな感じ。「赤い」「3つの」も「リンゴ」もすべて属格という形になっています。これを格の一致というのですが、日本語にはないルールですね。
子音が減ったり増えたり(時になくなったり)する
フィンランド語では、促音(長子音)は重要な要素です。
先ほど日本語とフィンランド語の両方に短い&長い子音の区別があると書きました。が、フィンランド語には長い子音に関わる独特の文法ルールがあります。
それが「子音階程交替」というもの。ざっくり言えば、名詞/形容詞や動詞が形を変える時に、子音が一緒に変化することがある、ということ。
このルールに従うと、促音がただの短い子音になったり、逆に短い子音が促音になったりします。
例えばkukka(花)という単語は、kukan(花の)、kukasta(花から)、kukat(複数形)に変化します。kkがkになっているのが分かるでしょう。
ただkukkaa(花を)、kukkia(複数の花を)のようにkの数が変わらないケースもあります。
逆に増える例はkastike(ソース)など。kastikkeen(ソースの)、kastikkeella(ソースで)、kastikkeet(複数形)になります。kがkkに増えていますね。
そして子音がなくなる例はRiika(リガ、ラトビアの首都)のなどの単語。Riian(リガの)、Riiassa(リガで)と変化するのですが、kが跡形もなく消え去っています。
詳しくは「増える減るいなくなる。フィンランド語の子音階程交替(kpt交替)とは」にもまとめていますのでよろしければどうぞ。
フィンランド語の動詞の活用はどちらかというとヨーロッパ型
日本語では動詞が活用します。フィンランド語でも動詞は活用します。これは「似てるところ」の項目で言及した通りです。
ただフィンランド語の動詞が何に対応して活用するのかというのは、日本語の動詞とはかなり違います。
日本語の動詞は、動詞の後ろに続くものに対応して変化しますよね。同氏の後に名詞が来るなら連体形、「~ます」などの用言が来たら連用形、「て」が来たらちょっと特殊な活用をしたり。
しかしフィンランド語の動詞は、主語の人称と数、時制によって変化します。「私」「あなた」「彼」「私たち」とか、過去形や現在完了形で形が変わるということ。
これはフランス語やドイツ語などのヨーロッパ言語に近い変化です。日本語の動詞は人称と数では変化しない(一部それを暗示する表現はありますが)ので、これは大きな違いですね。
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フィンランド語と日本語は同じ語族の言語?
端的に言うと、違います。
フィンランド語は「ウラル語族」というグループの言語です。このグループに属する言語は東ヨーロッパからロシアの西側に広がっていて、他にエストニア語、ハンガリー語があります。
英語、フランス語、ロシア語などは「インド・ヨーロッパ語族」なので、フィンランド語とはそれらともまた違う言語というわけです。
対して日本語は近い言語がない「孤立した言語」か、「日本語族」の言語とみなされることが多いようです。
日本語とフィンランド語は「膠着性」だけ見れば同じグループと思えなくもないのですが、それ以外に共通点がなさすぎるのです。単語も全然違いますし。
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まとめ:ヨーロッパの言語にしては日本語っぽいフィンランド語
以上、フィンランド語と日本語の似ている点と似ていない点を紹介しました。
日本とフィンランドは物理的にはかなり離れていますが、意外と共通点があるものですね。
スウェーデン語などの他の北欧語が日本語とまったく似ても似つかない分、フィンランド語との(おもに音韻的な)共通点が際立ってくる気がします。
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