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英語の発音学習に役立つ「ミニマルペア」とは?

言語学には「ミニマルペア」という概念があります。言語の発音に関する概念なのですが、中々聞きなれない言葉。

英語を含めた外国語の発音を学ぶ上で、ミニマルペアは意識しておくと役に立つ概念です。ミニマルペアとは一体何なのでしょう。

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ミニマルペアとは?

ミニマルペアとは何か、Wikipediaではこう定義されています。

ミニマル・ペア(Minimal pair)、もしくは最小対語(さいしょうついご)、最小対(さいしょうつい)、最小対立(さいしょうたいりつ)とは、ある言語において、語の意味を弁別する最小の単位である音素の範囲を認定するために用いられる、1点のみ言語形式の違う2つの単語のことをいう。

「ミニマルペア」- Wikipedia日本語版

簡潔に言い換えると、ミニマルペアは「1つだけ音素が違う2つの単語」ということ。音素=「その言語が持つ子音あるいは母音」と理解して頂いて構いません。

まあようするに単語が2つあって、その2つの単語の発音の違いが1つだけの場合、その2つの単語はミニマルペアである、ということになります。

具体例を見ていきましょう。

日本語のミニマルペアの例

具体例があったほうが分かりやすいと思うので、日本語の例を出していきます。

みなさん「柿」と「鍵」は違う単語で、発音が違いますよね?

この場合、

  • 「柿」は/kaki/
  • 「鍵」は/kagi/

と発音します(何でスラッシュで囲っているのかはここでは省略します)。

発音の違いは2つ目の子音がkであるかgであるかだけ。それ以外はアクセントも含め全て一緒です。

つまり何が言えるかというと、この「kとgの違い」によって僕らは「柿」と「鍵」という2つの単語を「発音の違う別の単語」と認識できるわけです。Wikipediaの言い方を借りればkとgは「弁別的対立をなしている」と言います。

日本語ではkとgが明確に区別されるわけですね。ここでは、無声か有声か(発音時にのどが震えているかどうか)がカギになっています。

ちなみに意味が違う2単語のペアなら何でもいいかというとそうではなく、発音がどこか1ヶ所だけ違っていないとミニマルペアは成立しません。

たとえば「肩」と「過多」では、意味の違う別単語だけれど、発音は全く同じなのでミニマルペアにはならないわけです。

このミニマルペアが語学においてどう重要かは、ある程度分かると思います。

外国語(の発音)を習得するには、基本的に自分の言語にはない音を区別できるようにならないといけません。つまり日本語では成立しないミニマルペアをちゃんと認識できるようにしなければならないんです。

次からは、その「日本語では成立しないミニマルペア」を、英語とフィンランド語の例を出しながら見ていきたいと思います。

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英語のミニマルペア

とりあえず、外国語学習においてミニマルペアは重要な概念だと分かっていただけたかと思います。

「日本語では成立しないミニマルペア」は、英語においても何語においても、日本人が苦手としがちな発音となります。

では日本人が苦手とする子音のペアは何でしょう?

子音のミニマルペア

まずは子音から。日本人が苦手とする子音対立は、代表的なのはLとR、BとV、SとSH、SとTH、ZとTHでしょう。

これらの発音がミニマルペアとなっている例をリストにしてみました。さすがに全部挙げるのは不可能と思いますので、あくまで一部です。探せば他にも見つかるはず。

発音対立ミニマルペア
LとRledとred、lightとright、loyaltyとroyalty、lungとrung、breakとBlake 、climbとcrime、glowとgrow、playとpray、peelとpeer
BとVbanとvan、boatとvote、curbとcurve、Serbとserve
SとSHseepとsheep、seatとsheet、sickとchic、sipとship
SとTHsawとthaw、sickとthick、singとthing、soughtとthought、faceとfaith
ZとTHZenとthen、breezeとbreathe

スペルが違っていても発音が同じならミニマルペアは成立することに注意してください。

母音のミニマルペア

続いて母音。日本人が苦手とするのは/oʊ/と/ɔ:/、/əː(r)/と/ɑː(r)/、そして/æ/と/ʌ/の違いでしょう。聞き分けるのはさほど難しくありませんが、発音し分けるのはややハードルが高いですね。

この発音の対立を含むミニマルペアは以下。

発音対立ミニマルペア
/oʊ/と/ɔ:/closeとclause、coal-とcall、coatとcaught、coldとcalled、folkとfork※、lowとlaw、pokeとpork※、rowとraw、so(あるいはsow, sew)とsawなど
/əː(r)/と/ɑː(r)/perkとpark、stirとstar、wordとward、workとwalkなど
/æ/と/ʌ/bagとbug、catとcut、crashとcrush、hatとhut、madとmud、ranとrun、sangとsungなど

※印をつけたミニマルペアは、音節末のRを発音する方言では成立しません。

このように英語の発音を学ぶときは、こういった「日本語では成立しないミニマルペア」を集中的に学習すると良いかと思います。

フィンランド語の場合

ここはある意味おまけです。興味がない場合は次の学習法のところまで飛ばしてもらって構いません。

フィンランド語は音素の少ない言語ですが、フィンランド語にも日本人が苦手としがちなミニマルペアがいくつかあります。主にLとR、そして母音のうちいくつかがそうです。

LとRのミニマルペアとなっている単語は以下のようなものがあります。

lautaとrauta、laulaとLaura、lokkiとrokki、loskaとroska、eliとeri、eloとero、kalaとkara、keltaとkerta、Koriとkori、kiuluとkiuru、kouluとkouru、kuoliとkuori、kuuloとkuuro、piilläとpiirrä、seulaとseura、suolaとsuora

フィンランド語のLは英語と同じですが、Rは巻き舌。

フィンランド語には日本語にない母音が3つもあるので、ミニマルペアの区別は母音の方が厄介です。なかでもaとä、uとy、uoとyöを発音し分けるのが難しいかも。

発音対立ミニマルペア
aとäjaa-jää、kasi-käsi、saa-sää、saari-sääri
uとyduuni-dyyni、muu-myy、puu-pyy
uoとyöluo-lyö、suo-syö、tuo-työ

ここで挙げたのはあくまで一例。ただこういった単語を集中して学べば、フィンランド語にある「日本語では成立しないミニマルペア」を割とスムーズに習得できるかと思います。

そしてより発展的になりますが、ミニマルペアということで外してしまいましたが、poutaとpöytä(発音の違いが1でなく2つある)のような、表の中の2つ対立のが成立する単語のペアもあり得ます。

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ミニマルペアを意識した学習法

発音学習にはマネっこと理論

ミニマルペアを意識すると、ターゲットとなる(=区別がより難しい)2つの発音の違いを集中して学習することができます。

そういった違いをマスターしていくには、耳で聞いてマネすると同時に、理論的な部分も理解しましょう。

何かと軽視されがちな発音の理論ですが、知っていると学習効率が上がります。まあ理論と言ってもそんなにお堅いものではなく、その音がどうやって発音されるかを知ればいいのです

たとえば英語の場合は、

  • R……舌を反らせて、口の上側の固い部分に近づけることで発音する
  • FやV……上の歯と下唇を触れさせて空気を通して発音する
  • L……舌先を上の前歯の付け根にくっつけ、舌の両サイドを歯茎に接近させる
  • TH……舌先を上の前歯の裏側に触れさせ、空気を通す

……こういった具合です。

そうした理屈っぽいことを理解した上でマネをしていけば、その発音肌感覚がついてきます。決して楽でもありませんが、そう苦でもないかと思います。

まあ最悪ここであげたミニマルペアをきっちり発音し分けられずとも大体通じてしまうのですが、ちゃんと発音できた方が明らかに理解しやすいでしょう。

発音学習の補助に発音記号も覚えよう

あと、ミニマルペアに限らず発音学習を円滑にするために、発音記号を読めるようにするのも大事です。

英語はスペリングと発音が必ずしも一致しないので、そんな時に発音記号を知っていればすぐに発音が分かります(英和辞典には必ず単語の発音が載っていますので)。

僕は高校生の時に発音記号を覚えましたが、英語学習だけでなく他の外国語でも役に立っています。それに、発音記号を覚えるとセンター試験の発音の問題など楽勝で解けるようになります。

発音記号は教科書ごとのオリジナルのものがあったり、言語ごとにも慣習的なものがあったりします。そういった記号は汎用性が低い(要するに他で使えない)ので、できれば国際音声記号(International Phonetic Alphabet, IPAを覚えるようにしてください。ちょうど僕が先の項目で使用した発音記号がIPAです。

ネイティブの発音を聴けるサイト

他にも、発音を耳から覚えることのできるサービスもあります。たとえばForvoというウェブサイト。発音が分からない単語を検索すると、ネイティブの発音を聞くことができるとても便利なサイトです。

どうしても発音が分からない時はForvo上でその単語を検索して、ネイティブの発音をチェックしてみましょう。非常に参考になります。英語以外の言語もありますよ。

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4件のコメント

  1. JS

    いつも興味深く記事読ませてもらっています。
    記事を読みながらいろいろ考えています。

    今回の発音の記事を読んでいて、日本人に区別しにくい英語の音として
    LとRがあったのですが、ふと逆はあるのだろうかと思いました。
    たとえば、日本人ははっきり区別して使い分けている音だけど、
    英語だとあまり区別されていない(どちらか一方だけ、人によって違うなど)
    音です。英語はあまり得意でないのでそういうのがあるのかどうか
    わかりません。

    私は今アイルランド語を勉強していて、英語の”in”に相当する単語に
    “i”というのがあるのですが、教材の音声サンプルを聞いていると”イ”に
    聞こえたり”エ”に聞こえたりします。もしかしたら日本語にはない”イ”と
    “エ”の中間のような音があって、前後の音との関係や個人差によって
    ”イ”寄りだったり、”エ”寄りだったりしているのか、それとも”イ””エ”
    その中間の音、どれでもよくて区別されていないのか、疑問に思っています。

    フィンランド語にそのような音はありますか?

    • めいげつ

      JSさんコメントありがとうございます。

      僕は英語のネイティブではないのであくまで推測になりますが、日本語で区別されるけれど英語ではされない音は、たとえば小さいツ(ッ)が着く音とつかない音の区別でしょう。長子音と短子音ですね。あの区別は英語はおろか大半のヨーロッパ語ネイティブには大変難しかろうと思います。
      フィンランド語ではたとえば、少数の例外を除き有声子音と無声子音の区別がほとんどありません(ただフィンランド人は基本英語and/orスウェーデン語が達者な人が多いのでおそらく区別できるだろうとは思いますが)。あとは「サ」と「シャ」の区別も同様ですね。本来のフィンランド語にはないけれど、外国語の影響でおそらく区別できるのかな、といった感じです。
      アイルランド語の興味深いお話ありがとうございます。フランス語などにも「イ」寄りの「エ」(狭い「エ」)があったりしますので、アイルランド語にも同じような母音があるのかも知れませんね。

  2. JS

    お返事ありがとうございます。

    小さいツがつくかつかないかというと例えば「砂糖」と「殺到」を思いつきましたが、イントネーションが少し違うような気もします。

    フィンランド語の場合の有声子音と無声子音は日本語の場合の「四国」と「時刻」などでしょうか。

    フィンランド語だとどういうのがあるのかと思い、めいげつさんのブログのフィンランド語の発音まとめ見てみたら例えば、子音のH,B両方あるけどBは外来語だけとか、K,GについてもGは外来語だけとか、そのような気がしてきました。
    そのまま読んでいて母音調和というところで気づいたことがありました。

    アイルランド語にも、動詞を活用するときに、動詞の根の最後の母音の種類によって違う活用語尾をつけるというのがあって
    不定形:fan(英語のstay) > 現在形:fanann
    不定形:bris(英語のbreak) > 現在計:briseann
    といったかんじなのですが、その母音の種類というのが
    狭母音:i,e
    広母音:a,o,u
    の2種類で、フィンランド語の中立母音と後母音と同じでした。違う言語で似たような規則を見つけると面白くなってきます。

    アイルランド語も発音がとても難しいのですが(聞き分け、自分で発するいずれも)日本人は区別できても、ヨーロッパの人は区別できない音が
    実際にあるんだと知って、少し気が楽になりました。そういう違いを知ることができるのも新しい言語を学ぶ面白さかもと思いました。

    • めいげつ

      JSさんコメントありがとうございます。

      砂糖と殺到では確かにイントネーションの違いもありますね。敢えて例をあげるなら「坂」と「作家」、「来た」と「切った」などでしょうね。
      「四国」と「時刻」の「し」と「じ」は確かに無声有声で対立はしていますが、「じ」は語頭では破擦音になりがちなので、たとえば「菓子」と「火事」のほうが正確かもしれません。

      >日本人は区別できても、ヨーロッパの人は区別できない音が実際にあるんだと知って、少し気が楽になりました
      こういう視点って大事ですよね。僕らは英語の音素の多さにまごついて(まあ実際多いのですが)ちゃんと発音できない自分を責めがちなので、逆も然り、という視点を持ってよりフラットに考えられれば色々な所でメリットがある気がします。

      アイルランド語にも母音調和のようなものがあるとは知りませんでした。全く違った言語で共通点を見つけると俄然楽しくなってきますよね。シェアありがとうございます!

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