フィンランド語は世界一難しい言語とか、悪魔の言語とも言われることがあります。
フィンランド語の文法はたしかに難しく、そしてその要因の1つたるは名詞の格変化の多さ。名詞が何十通りとか何百通りにも変化するとか色々な言説があります。確かに、格変化そのものとその他いくつかある接尾辞を合わせれば、名詞を何百通りにも変化させることができます。
今回の記事はその多すぎる格変化を、一つひとつ説明していくコアな記事です。全部読んでみても良し、下の目次から好きなところへ飛んで行っても構いません。
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フィンランド語は後ろからくっつける「膠着語」
フィンランド語は、ヨーロッパの大多数の言語(英語やフランス語、ロシア語、スウェーデン語含む)が属するインド・ヨーロッパ語族ではなく、ウラル語族という言語グループの一員。上に挙げたヨーロッパ言語とは祖先が全く異なります。
そしてウラル語族の言語は膠着語(agglutinative language)と呼ばれるタイプの言語が多いです。膠着語とは、単語に接尾辞(suffix)とよばれる小さな部分を前なり後ろなりからどんどんくっつけていくことで、意味を継ぎ足してゆく言語のことです。
こういう類の文法は他のヨーロッパ言語にもあるにはありますが、ウラル語の文法はこの「膠着語的な」性格が非常に強いのです。
実は我らが日本語も膠着語の一種で、助詞を名詞の後ろにくっつけたり、動詞の後ろに活用語尾をくっつけて意味を変化させます。たとえば、
- 日本語の場合:リンゴ→リンゴ+を、リンゴ+が、リンゴ+から……
- フィンランド語の場合:omena→omena+n、omena+a、omena+sta……
こんな風に語幹の形をあまり変えずに接頭辞(この場合は単語の後ろにくっつけるタイプなので接尾辞といいます)をくっつけることで、格変化だったり、単数複数だったり動詞の変化だったりを表していきます。これが膠着語です。
そして、フィンランド語は格(フ:muoto, 英:case)をもつ言語です。格というのは名詞の形のこと。格変化とはざっくり言えば、名詞が文の他の要素との関わりに応じて形と意味が変わることです。
フィンランド語は恐ろしく格変化が多いと言われますが、その格変化も全てこの膠着をもってなされます。では今からその格変化とやらを一つ一つ見ていきましょう。
カッコ内には、上にあるように左にフィンランド語名、スラッシュをはさんで右に英語名を表記しています。(フィンランド語名/英語名)です。
主格(nominatiivi/nominative)
主格は名詞が主語になるときの形です。単数形の場合は基本的に原形(辞書形)が主格になります。
まあ、単数主格に関しては基本的にこれだけなので、複数形の主格について書いていきます。
複数形の場合は「t」をつけますが、単語によっては少し語幹を変化させる必要があります。
- omena(リンゴ)→ omenat
- kukka(花)→kukat
- kenkä(靴)→kengät
- asiakas(客)→asiakkaat
「kukkaのkが減ってんぞ」などと思った方、鋭いですね。主格の複数形化に限らずフィンランド語の格変化では、kptの3つが関わると「子音階程交替」という現象が起こります。決して悪鬼間違いじゃないんですよ。
「子音階程交替」については、詳しくは以下の記事まで。
人称代名詞(「私」、「あなた」「彼ら」など)はtをつけるのではなく全く別の形になります。
- minä(私)→me(私たち)
- sinä(あなた)→te(あなたたち)
- hän(彼/彼女)→he(彼/彼女ら)
そして主格には1つ、厄介な特徴が。
Mennään lounaalle!(昼ごはんに行こう)とか、Mene lounaalle!(昼ごはんに行きなさい)のような「~しよう」文や命令文は、「無人称文」といって主語がないのが普通なのですが、そういうときに主格の名詞を使うと、その名詞は動作の目的語になります。
主格が動作の目的語になりうるのは、後の属格と対格の項でも触れますが、「動詞の動作に終わりがある(動作が完了する)」場合です。
フィンランド語のこの種の目的語ってふつう対格か属格なのですが、無人称文では主格になるんですよね。たとえば、
- Ota sateenvarjo mukaan.(傘を持っていきなさい) △Ota sateenvarjon mukaan.
- Laita televisio päälle.(テレビを点けなさい) △Laita television päälle.
こんな感じ。「とる(Otaは厳密には『とる』という意味)」も「点ける」も、動作は完了しますよね。テレビを点けるのもボタンをポチっと一度押すだけで完了ですし。
こんな風に、~しよう文や命令文に他動詞を使う場合は、目的語を主格にする必要があるのです。
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属格(genetive/genetiivi)
属格は、俗にいう所有格です。フィンランド文法では(ていうか英文法以外)基本的に属格(ぞっかく)呼ばれます。
ドイツ語文法では「2格」だったりロシア語文法では「生格」という言い方をしますね。個人的にこの言い方は好きではありませんが(ぱっと見ても意味が分からないから)。
属格は、単数形の場合「n」をつけ、複数形の場合は名詞に寄ってさまざまですが基本的に「-ien/jen」「-den/tten」となります。
- kissa(猫)→kissan(単)、kissojen(複)
- kukka(花)→kukan(単)、kukkien(複)
- asiakas→asiakkaan(単)、asiakkaiden(複)
単数複数どちらにせよ「n」で終わるのが特徴ますね。
そして、属格には主に3つの使い方があります。
1つ目は、日本語の「~の」や英語の’sに相当する所有格としての基本的な使い方。「私の猫」はMinun kissaになります。Minunはminäの属格形。
フランス語のような所有形容詞はフィンランド語では使わないため、minunはこれ以上格変化しません。なので「私の猫に」はMinun kissalleになり、minunの形ははそのままです(厳密にいうとMinun kissalleniですが、ここで触れないでおきます)。
2つ目は、目的語としての使い方。フィンランド語には人称代名詞を除き対格が存在しないので、この属格で補います。主格の方でも触れましたが動作が完了する場合の目的語は属格になります。ただし単数の場合のみ。複数の場合は複数主格になります。
- Eilen minä näin Hannan.(昨日私はハンナを見た/ハンナと会った)
- Eilen minä tapasin Juhan.(昨日私はユハと会った)
3つ目は「~しなければならない」文の主語。フィンランド語には英語のshould、must、have toに相当するpitää、täytyä、olla pakkoという語句を使った特殊な分があります。
この3つは全て、主語となる単語に属格になれと要求するひねくれた動詞なのです。そしてその動詞自体は3人称単数形になります。
- Minun pitää ottaa voileipiä mukaan.(僕はサンドイッチを持って行かなきゃ) △Minä pitää ottaa voileipiä mukaan.
- Minun täytyy tehdä läksyt.(私は宿題をやらなきゃならない) △Minä täytyy tehdä läksyt.
- Meidän on pakko mennä kouluun.(私たちは学校に行かなきゃならない) △Me on pakko mennä kouluun.
このほかにもレベルは上がりますが、Minun on tehtävä läksyt.(私は宿題をやらなきゃならない)とメインの動詞の変化形を使ってよりスマートに言うこともできます。ちなみにtehtäväは動詞tehdä(する)の現在受動分詞です。
対格(accusative/akkusatiivi)
代表的な格変化言語であるラテン語やロシア語にもある対格。英文法でいう目的格のこと。他動詞の目的語になる格ですね。日本語なら「~を」で表されるのでヲ格ともいいます。
非常に不思議なことですが、フィンランド語で「対格」という格をもつのは人称代名詞だけです。普通名詞の場合はかわりに属格を使います。不思議ですね。
- minä(私)→minut(私を)
- hän(彼/彼女)→hänet(彼/彼女を)
- te(あなたたち)→teidät(あなたたちを)
こんな風に「t」をつけた形になります。複数主格と紛らわしいって? 大丈夫です。人称代名詞の複数形は全く別の形になりますので(minä→me、sinä→te、hän→he)。
対格は目的語だといいましたが、実は次に出てくる分格も目的語になります。どのように違うかと言うと、基本的には「動詞の動作に終わりがある(動作が完了する)」場合。「見る」とか、「会う」とか「たたく」とかがその例。たとえば、
- Eilen minä näin hänet.(昨日私は彼/彼女に見た/会った。)
- Eilen minä tapasin hänet.(昨日私は彼/彼女に会った。)
逆に動作が継続的だと分格になります。それは次のセクションで。
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分格(partitive/partitiivi)
さて、こちらがフィンランド語において独特かつ最強にややこしい格、分格です。
。分格はフィンランド語の象徴的な格(まあフランス語にも似たようなものがあるんですが)で、分格マスターなくしてフィンランド語マスターはありえません。
これは英語や日本語へスマートに直訳するのは不可能なので、1つずつ分けて書いていきます。活用語尾は「a」で終わるものが多いですが、「ta」や「tta」の場合もあります。複数形の分格なら「ia」「ita」か「eja」。
まずは目的語としての使い方。前述した属格や対格、主格までもが他動詞の目的語になれますが、この分格も目的語になります。ただ分格が目的語で果たす役割が大きいので、分格 vs. その他という構図になっています。
そしてどんな場合に分格が目的語になるかというと、動作が持続的で完了しない時。まだ一部しか完了していない時。英語や日本語なら進行形であらわされるのもこれです。
- Minä syön kalaa.「私は魚を食べている/魚を食べる(習慣として)」
- Minä juon maitoa.「私は牛乳を飲んでいる/牛乳を飲む(〃)」
- Minä rakastan sinua.(私はあなたを愛している)
こと最後の文についてはどこかの本かサイトで「愛し切る(=動作が完了する)なんてありえないでしょ!」とありました。分格はその名の通り「一部分」を意味する形なので、動作が一部しか終わっていない=持続的と言うことになります。
あと、目的語が不可算名詞(maitoなど)ならいつでも分格になります。
2つ目は今言ったばかりの「一部」を意味するもの。osa(部分)とか、○○ prosenttia(○○パーセントの)など部分を象徴する単語の直後に、母数を表す語句が分格となって現れます。英語でいうof ○○です。
- Suurin osa Suomea on peitetty lumella.(フィンランドの大部分が雪で覆われている。)
この場合は出格も使えます(osa Suomestaとも言える)。どちらかというと出格のほうがよく使われる印象です。
3つ目は数字の被修飾形として。英語では数字の後の名詞は複数形になりますが、フィンランド語ではなんと単数分格になるのです! これは「多くの」を意味するmontaの後でも同じです。(paljon「たくさん」の後だと複数分格になります)
- Korissa on kolme omenaa.(バスケットの中にはリンゴが3つある)←There are three apples in the basket.
- Isän huoneessa on monta kirjaa.(父の部屋には本がたくさんある)←There are many books in my father’s room.
- Japanissa asuu paljon kiinalaisia.(日本には中国人がたくさん住んでいる) ←Lots of Chinese people live in Japan.
主な使い方はこんなところでしょうか。他にもいくつか細かい使い方がありますが、覚えておくべき基本的な使い方はこれくらいだと思います。
内格(inessive/inessiivi)
内格は「~の中で/に」という意味の格です。英語でいうin ○○。語尾は基本的に「ssa」です。出格、入格とともに内部格と呼ばれる3つの格の1つです。
- Talossa asuu neljä ihmistä.(その家の中には4人の人が住んでいる)
- Minä näin hänet kaupassa.(私は店の中で彼/彼女に会った)
済んでいる場所を言いたい時は、asua(住む)という動詞を使い地名を内格にすればOKです。
- Minä asun Tokiossa.(私は東京に住んでいます)
- Hän asuu Helsingissä.(彼/彼女はヘルシンキに住んでいます)
外国の地名ならこれでOKですがフィンランド国内の地名の場合は1つ注意点が! フィンランド国内には、「ssa」を使う地名と「ssa」ではなく後述する接格「lla」を使う地名があるのです! Tampere「タンペレ」やRovaniemi「ロヴァニエミ」、フィンランドの隣国ではVenäjä「ロシア」が例外的にその例にあたります。
なのでこれらの地域に住んでいると言いたい場合は、
- Minä asun Tampereella/Rovaniemellä/Venäjällä.(私はタンペレ/ロヴァニエミ/ロシアに住んでいます) △Minä asun Tampereessa/Rovaniemessä/Venäjässä.
となります。基本的に一般名詞(niemi、joki、järvi)で終わる大きな都市名は「lla」を使う場合が多いですが、そうでない地名もあるので1つ1つ覚えていくしかなさそうです。
※語尾は基本的に「ssa」と言いましたが、一つだけ例外が。se(それ)という代名詞の内格はsiinäと、全く別の形になります。
- Siinä on omenoita.(その中にはリンゴがいくつかある)
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出格(elative/elatiivi)
出格とは、名詞が表すものの中から何かを取り出す時に使う格。これも内部格と呼ばれる3つの格の1つ。日本語の「~から」格で、英語のfrom+名詞と同じ。フィンランド語では「sta」をつけます。
- Minä otin lompakon laukusta.(私はカバンから財布を取り出した)
出身地を言いたい時は、be動詞+kotoisin+出身地名の出格が基本的なパターン。でも内格の項で挙げたように、一部の地名は奪格「~lta」を使ってください。
- Minä olen kotoisin Japanista.(私は日本出身です)
- Hän on kotoisin Tampereelta.(彼はタンペレ出身です)
そのほか、「~について」という意味で使うのはこの格です。英語でいうabout。
- Me puhuimme sinusta.(私たちは君のことを話していたんだよ)
- Tämä kirja kertoo kielestä.(この本はフィンランド語について伝えている)
そして出格の大事な用法がもう一つ。「好き」という動詞pitääとtykätäの目的語がどうもこの出格になるんです。
- Minä pidän/tykkään mansikoista.(私はイチゴが好きです)
でも先ほど分格の項で触れたrakastaa(愛する)は分格をとるんですよね! 紛らわしい!
あとこれも分格の項で触れたことですが、osa「部分」とか○○ prosenttia「○○パーセント」という「部分」を表す単語の「全体」を出格で表すこともできます。
- Suurin osa suomalaisista pitää saunasta.(フィンランド人の大多数はサウナが好きだ)
同様にして、出格を使えば「○○なもののうちの一つ」という言い方もできます。よく形容詞の最上級「最も○○な」と一緒に使われますね。
- Suomi on yksi kauneimmista maista maailmalla.(フィンランドは世界で最も美しい国の一つだ)
- Suomi on yksi vaikeimmista kielistä.(フィンランド語は最も難しい言語の一つだ)
入格(illative/illatiivi)
フィンランド語の面白い格、入格。これも内部格と呼ばれます。日本語だと「~の中に」とか「~の中へ」が近いでしょうか。英語だと動詞によってinやintoと同じ意味になります。
作り方が結構特殊で、単語の最後の母音を伸ばして「n」をつける。laukku(カバン)ならlaukkuunだし、JapaniならJapaniinになります。ラウックーン。ヤパニーン。
長い母音で終わる地名や、語幹が長い母音の場合は「seen」をつけます。「シーン」ではなく「セーン」。Lontoo(ロンドン)やPorvoo(ポルヴォー)はいずれもLontooseen、Porvooseenになります。
- Minä laitoin lompakon laukkuun.(私は財布をカバンの中にしまった)
地名を入格にして「~へ行く」という言い方もできます。
- Tervetuloa Japaniin!(ようこそ日本へ!)
- Pääseekö tällä bussilla Porvooseen?(このバスでポルヴォーへは行けますか?)
- Minä menen Helsinkiin.(私はヘルシンキに行きます)
しかし、ここにも内格の項で触れた内部格/外部格を使う地名の問題が。
- Minä olen saapunut Helsinkiin.(ヘルシンキに着きました)
- Minä olen saapunut Tampereelle.(タンペレに着きました)
また、入格は「信じる」系の動詞の目的語にもなります。
- Minä uskon Jumalaan.(私は神を信じています)
- Minä luotan sinuun.(私はあなたを信頼しています)
余談ですが、「~に/へ」を意味する入格ですが、人に何かモノをあげるときは後に述べる向格(「~の外側へ」)を使ってくださいね。じゃないとモノが皮膚をぶち抜いて相手の体の中に入って行ってしまうので。詳細は向格のところで。
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接格(adessive/adessiivi)
接格は「~の外側に/で」を意味する形。英語のonに相当します。活用語尾は「lla」。この接格と奪格と向格の3つは外側を意味するので外部格といわれます。
接格には主に3つの使い方があり、1つ目にして最も基本的なのは、ズバリ「~の外側に/で」を意味する使い方。
- Kissa on pöydällä.(その猫は机の上にいる)
内格の項でも触れましたが、地名の一部は外部格をとります。
- Minä asun Tampereella/Rovaniemellä/Venäjällä.(私はタンペレ/ロヴァニエミ/ロシアに住んでいます)
春夏などの季節や朝や夕方など一日の時間区分も接格を使います。主に一般的な事実を言う時です。
- Kesällä käyn Suomessa.(私は夏にフィンランドに行く)
- Minä palaan kotiin illalla.(私は夕方に家に帰る)
そして2つ目の使い方で、これもまた重要。フィンランド語では「私は~を持っている」と言うのに接格を使います。
……ならば「持つ」とかhaveにあたる動詞を使えばいいんじゃないかって? いえいえ。フィンランド語にhaveに相当する動詞はないんですよねこれが。なので別の方法を使って言わざるをえないんです。そこで名詞の接格に白羽の矢が立ちました。
- Minulla on suomalainen ystävä.(私にはフィンランド人の友達がいる)
- Hänella on kaksi kissaa.(私には猫が2匹いる=私は猫を2匹持っている=飼っている)
お気づきの方もいるとは思いますが、日本語にも「~には……がいる」という言い方があるので、フィンランド語の所有文もそれに近いものだと思います。
そして3つ目。これもかなり使います。乗り物などの道具あらわす言い方です。
- Menen Suomeen lentokoneella.(私は飛行機でフィンランドへ行く)
- Kirjoitin viestin tietokoneella.(メッセージをパソコンで書いた)
奪格/離格(ablative/ablatiivi)
奪格は「~の外側から」という意味の形。英語ではoffですね。語尾は「lta」です。
- Minä otin julisteen seinältä.(私は壁(の表面)からポスターをとった)
人から何かをもらったり奪ったりする時に使うのも奪格です。
- Sain Hannalta lahjan.(ハンナからプレゼントをもらった)
- Minulta varastettiin lompakko.(私から財布が盗まれた=私の財布が盗まれた)
その他特殊な使い方として、「においがする」「見える」など五感を用いた表現をする時に使います。
- Kahvi näyttää maistuvalta.(コーヒーが美味しそうに見える)
- Kuulostaa hyvältä.(いい感じに聞こえる=いいね!)
- Haisee pahalta.(悪く匂う=嫌なにおいがする)
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向格(allative/allatiivi)
向格は「~の外側へ」を意味します。英語では動詞に寄ってonやontoに相当します。語尾は「lle」です。
元々の「~の外側へ」の意味に加え、「誰々に○○をあげる」などの「誰々に」の部分にも向格を使います(入格を使ってしまうと「誰々の中に」という意味になるので、あげたモノが誰々さんの体の中に入っていってしまいます……ガクブル)。
- Kissa hyppäsi pöydälle.(その猫は机の上に跳んだ)
- Hanna antoi minulle kynän.(ハンナは私にペンをくれた)
「~にとって○○するのは難しい」の「~にとって」の部分もこの向格を使って表します。
- Minulle on vaikeaa puhua suomea. (私にとってフィンランド語を話すのは難しい)
様格(essive/essiivi)
様格はフィンランド語独特の格です。日本語の「~として」や「~の状態で」に相当しますが、英語では意味によって前置詞のasだったり、一語では表せなかったりします。様格は「na」で終わります。
- Minä työskentelen opettajana.(私は教師として働いている)
- Poika palasi kotiin onnellisena.(男の子は嬉しそうに家に帰ってきた)
2番目の文では英語ではおそらく分詞構文を使ってThe boy returned home, looking happy.となると思います。
「○曜日に」とか「○○年に」と言いたい時はこの様格を使います。
- Menen sairaalaan tänä tiistaina.(私は次の火曜日に病院に行く。)
- Aloin opiskella suomea viime vuonna.(去年フィンランド語の勉強を始めた) ※viime「前の」は形容詞ですが格変化しません
- Olen syntynyt vuonna 1996.(私は1996年に生まれた。)
出格の項でも出てきたpitääとこの様格を使うと、「~を○○とみなす」という意味になります。
- Japanilaisia pidetään hiljaisina.(日本人は静かだと思われている)
変格(translative/translatiivi)
変格もフィンランド語独特の変化形で、ニュアンスを伝えるのが非常に難しい格です。
まずは「変格」という名が示す通り何かに「変わる」という意味を表します。
- Hanna tuli punaiseksi.(ハンナは赤くなった)
- Ilma muuttui lämpimäksi.(天候は暖かくなった)
特定の動詞はこの変格を要求します。
- Minua kutsutaan Ryoksi.(私はRyoと呼ばれています)※本当です
- Helsinkiä sanotaan Itämeren tyttäreksi. (ヘルシンキはバルト海の乙女と呼ばれている)
そして非常に基本的な使い方。言語の名前を変格にして「○○語で」という意味になります。
- Mikä on suomeksi “hello”?(helloはフィンランド語で何ですか)
- Kirjoitan ystäville viestejä englanniksi.(私は友達に英語でメッセージを書く)
欠格(abessive/abessiivi)
欠格は非常に分かりやすい格。その名が示す通り「~なしで」を表します。英語のwithoutと同じですね。語尾は「tta」です。
- Voitko nukkua tyynyttä?(枕なしで寝れるの?)
ですが欠格は最近ではあまり使われず、Voitko nukkua ilman tyynyä? のように前置詞のilman+分格のほうをよく使います。僕も会話で欠格が使われているのは聞いたことがありません。
具格(instructive/instruktiivi)※複数形のみ
具格は「~で/を使って」。英語でいうwithです。複数形でしか使われない特殊な格です。なぜかは僕にも分かりません笑 語尾は「in」です。人称名詞には使えません。
ですがそもそも具格自体あまり使われません。少し前でも触れましたが、道具を表すときは接格を使うのが普通です。
- Kirjoitin viestin tietokonein.(メッセージをパソコンで書いた)→Kirjoitin viestin tietokoneella.
ですが慣用的な言い方には具格由来のものが多くあります。
- Minä näin revontulet omin silmin.(自分の目でオーロラを見た)
- Kirjoitin viestin käsin.(私は手でメッセージを書いた)
共格(comitative/komitatiivi)※複数形のみ
共格も複数形でした使われない格。「~とともに」という意味で、英語のwithです。語尾は「ineen」ですが、enの部分は所有人称語尾と呼ばれるもので、理論上は人称に寄って「ineni」「inesi」「inemme」「inenne」に変化します。まあ、ほぼ使わないんですが。
- Minä olin ostoksella ystävineni.(私は自分の友達と一緒に買い物をしていた)
- Presidentti osallistui kokoukseen vaimoineen.(社長は夫人とともに会議に出席した)
- Turku on mukava kaupunki vanhoine taloineen.(トゥルクは古い建物を含め居心地のよい町だ)
共格は会話では基本的に使わず、属格+後置詞のkanssaを使うのが普通です。そして不思議なことに、共格は人称代名詞では使えないのですが、この属格+kanssaは使えます。
最後の2つの格、具格と接格は会話ではほぼ使いませんが、ニュースなどを読んでいるとまれに出くわしますので、まあ見れば意味が分かるくらいの認識で構わないでしょう。
まとめ:格変化は結局いくつあるの?
……ふう。これでフィンランド語文法の要である格を15種類解説しました! フィンランド語の単語にいくつ格変化があるのかというタイトルの質問での答えですが、一般名詞か人称名詞かどうかや、数える基準にもよるので何とも言えないですね!
一応1つの格につき1つの形ということにするなら、フィンランド語の格は一般名詞と人称名詞ともに単複合わせて26個です。
格変化が多くて難しそうに見えますが、過去の記事で説明した通り、語尾を覚えれば基本済んでしまう話なので覚えること自体はそこまで難しくないですよ! ただ、使いこなすのはまた別の話ですが……
以上、フィンランド語の格変化でした!
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フィンランド語の文法が完全網羅されていて、僕も頻繁にレファレンスとして使っています。この記事でも例文をいくつか拝借しました。シンプルにまとめられていて非常に有用です!
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JS
はじめまして。
”曲用”という単語を検索していてこちらのサイトにたどり着きました。
アイルランド語を勉強していて、日本語とも英語とも全く違う複雑さに戸惑っていたのですが、めいげつさんのいくつかの記事を読んで、言語というのはそういうものなのかと、少し気が楽になりました。
ふとおもったのですが、フィンランド語は英語で言うところinやofのような前置詞がない(?)のでしょうか?(その代わりにたくさんの格変化がある)
そうであれば、そのような言語があるとはこれまで考えたこともありませんでした。アイルランド語でもofが無くて、かわりの名詞の属格を使うとあり、そもそも属格て何だろう?と思って検索していました。
めいげつ
JSさん初めまして。コメントありがとうございます。
アイルランド語を勉強されているのですね! 僕もケルト系の言語には前から興味があって、暇があったら少しかじってみようかなーと考えております笑 僕の記事を読んで気が楽になったとのこと、とても嬉しいです。
さて本題ですが、フィンランド語には格変化がたくさんあるものの、前置詞はあります。というか前置詞だけでなく後置詞もあります。
英語のwithにあたるkanssaは属格支配の後置詞で、withoutにあたるilmanは分格支配の前置詞です。前/後置詞によって名詞の格が異なるのは、ロシア語やドイツ語と感覚が似ていますね。
このあたりは「フィンランド語の前置詞&後置詞まとめ
」という記事で詳しく書いておりますので、よろしければご覧ください。
アイルランド語でもofが無くて、かわりに名詞の属格を使うとのことですが、ロシア語やドイツでも同様に属格を後置させて使うので、おそらくインド・ヨーロッパ語に共通なんでしょうね。フィンランド語も同じような感じでofはなく名詞を格変化させて対応しますが、分格や出格が使われ、属格は使われません。
……こんな感じでいかがでしょうか?
またもしこのコメントを見る機会があれば、アイルランド語を始めた理由なんかをお伝え願えないでしょうか? 単純な興味本位なのですが笑
アイルランド語は日本ではかなりマイナーな部類だと思うので、始めたきっかけというのがすごく気になります!
JS
早速のお返事ありがとうございます。
紹介いただいた記事読んだところ
「フィンランド語には前置詞が「あります」」と書かれていました…
あと、よく考えれば格変化だけでは到底前置詞全てカバーできないですね。
格変化で表される場合と、前置詞を使って表す場合の2通りがあると
考えました。
記事を見ながら、この前置詞はアイルランド語だとどうなるだろうと考えて
いました(習い始めたばかりなのでほとんどわかりませんでしたが)
今知っているのはこれくらいなのですが
Tá an pháirc in aice an bhainc.(公園は銀行の隣にあります)(間違ってるかも…)
フィンランド語で直接「隣」というものはなかったのですが
「~の近くで」が近い意味になるのでしょうか?
Puisto on pankkin lähellä.(公園は銀行に近くにあります)
アイルランド語習おうと思った動機ですが、
楽器(金属弦ハープ)を習っていてアイルランドの伝統音楽に
触れることがあり、そのタイトルや歌詞にアイルランド語が出てきて、
意味や読み方を知ろうと思ったのがきっかけです。
これまでに習ったことのある英語・ドイツ語と同程度に考えて
いたのですが、とてもそんなことはなく、全く違っていて、
あまりの複雑さに逆に興味がわいてきてまだ続けていると
いうところです。
フィンランド語も習えればよいのですが、とても2つ同時は不可能ですので、
またの機会にしようと思います。
しかし、文法的な考え方、言葉が違えばなにもかも違うのが当たり前だと
いうことを改めて知って、参考になりました。
めいげつ
JSさん
お返事ありがとうございます。
ハープを習ってらっしゃるんですね。なるほどそのつながりで。わざわざお答えいただきありがとうございます。
なんだかとても素敵なご縁ですね。
フィンランド語で「~の隣で」はvieressäという後置詞を使って表します。(「前置詞まとめ」と題しておきながら取りこぼしていました。失敬。後ほど加えておきます)
なので「公園は銀行の隣にあります」だとPuisto on pankin vieressä.となります。
(ちなみにフィンランド語には「子音階程交替」という厄介なルールがあるため、pankki→pankkinではなく、kが1つ減って「pankin」が正しい形となります)
言語って一つ一つ違っていて、本当に奥が深いですよね。なので多言語学習はやめられません笑 ケルト系の言語もいつかできたら良いなと思ってます(それこそアイルランド語か、もしくはウェールズ語あたり)。
アイルランド語の学習が軌道にのってきたら、ぜひフィンランド語もやってみてください! フィンランド語は印欧語族ですらないので、色々なところで僕たちが慣れ親しんだものとは違う何かが発見できると思います!