こんにちは。めいげつです。

ヨーロッパの言語って、インド・ヨーロッパ語族だけだと思っていませんか。実は北欧のフィンランド語や東ヨーロッパのハンガリー語などは、ヨーロッパの中にありながらも他とは違う、「ウラル語族」の言語です。

ここではあまり馴染みのない「ウラル語族」の言語がどんな言語なのか、ざっくりと紹介します。

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ウラル語の分布

Uralic languages ( ALL LANGUAGES ).png
ウラル語の分布。 By Pepethefrog1234567890 – Own work, CC BY-SA 4.0, on Wikimedia Commons

ロシアのウラル山脈(アジアとヨーロッパとの境目ともいわれる山々で、ウラル語族の名前の由来)から、西はヨーロッパの東側、東はシベリアの西部まで広く分布しています。

ヨーロッパでは話者の多い順にハンガリー語フィンランド語エストニア語があり、これらはヨーロッパ3ヶ国(それぞれハンガリー、フィンランド、エストニア)の公用語にもなっていますね。

ヨーロッパではこのウラル語(あとは系統不明のバスク語)以外はほぼ全言語が「インド・ヨーロッパ語族」というグループの言語なので、みなさんがヨーロッパの言語と聞いて抱くような言語(英仏独伊露語etc)とはかなり異質に思えます。

特にハンガリー語は周りにウラル語がまったくないので、まさに陸の孤島のような感じですね(余談ですがこの状況を「言語島」と言ったりします)。

ウラル語の言語が印欧語とどれだけ違うか、主要なヨーロッパ言語とウラル語を比べてみましょう。ウラル語は言語名を青字にしました。

言語\意味空港大学電話サッカー新しい
英語airportuniversitytelephonefootball/soccernew
フランス語aéroportuniversitétéléphonefootballnouveau/nouvelle
ドイツ語FlughafenUniversitätTelefonFußballneu(e)
スウェーデン語flygplatsuniversitettelefonfotbolny
ロシア語аэропорт(aeraport)университyет(universitet)телефон (tyelyefon)футбол(futbol)новый(novyy)
ハンガリー語repülőtéregyetemtelefonlabdarúgásúj
フィンランド語lentoasemayliopistopuhelinjalkapallouusi
エストニア語lennujaamülikooltelefonjalgpalluus

どうでしょう。西欧語は非常に似通っているか、意味の類推が可能な場合が多いです。

しかしウラル語の単語は一目見ても全く意味が分からないですよね。ここにウラル語が西欧語と違う祖先をもつということが分かるかと思います。

(なお「電話」についてはハンガリー語とエストニア語は西欧語を直輸入したようですが)

たしかにハンガリー語は孤立していますが、ちなみにこれらの言語が「孤立した言語」というのは言語の分類的には間違い。

「孤立した言語」というのはバスク語みたいに系統が明らかになっていない言語の事を言います。日本語も説によっては「孤立した言語」だったりじゃなかったりです。

ヨーロッパのウラル語は、先に挙げた3言語以外では少数言語。スカンジナビア先住民の言語サーミ語と、エストニア国内のセト語があげられます。

あとはロシア国内にあるイングリア語カレリア語(カレリア共和国の公用語)、ヴェプス語マリ語(マリ・エル共和国)、コミ語(コミ共和国)、ウドムルト語(ウドムルト共和国)、エルジャ語ネネツ語モルドヴィン語ハンティ語マンシ語といった言語が話されいます。

ウラル語の分類

ハンガリーの街角。ハンガリー語で書かれている
Caro Sodar / Pixabay

ウラル語族は、まず2つの「語派」とよばれるグループに分けられます。

1つは「フィン・ウゴル語派」、もう一つは「サモイェード語派」。フィン・ウゴル語派は東欧や西部ロシアなど西方面に、サモイェード語派は北部シベリアと東方面に広がっています。

まずはフィン・ウゴル語派。話者人口の多い言語はこのフィン・ウゴル語派に集中していて、代表的な言語がハンガリー語(約1300万人)、フィンランド語(約550万人)、エストニア語(約110万人)。ほかにもサーミ語などがあげられます。

フィン・ウゴル語派の下位グルーピングは説によってまちまちで、「バルト・フィン諸語とウゴル諸語」だったり、「フィン・ペルム諸語とウゴル諸語」だったり。

どちらにせよ、ウゴル諸語はハンガリー語やロシア中部のハンティ語やマンシ語のグループです。もう一方のフィンがつく方はヨーロッパ北部のフィンランド語やエストニア語、サーミ語、そしてロシア西部のコミ語やマリ語を含むグループです。

もう1つのサモイェード語派はシベリア北部に分布しています。シベリア北西部に暮らすネネツ人が話すネネツ語や、セリクプ人のセリクプ語などがあります。

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ウラル語の特徴

Finmiki / Pixabay

名詞が格変化する

格変化とは、ざっくり言えば名詞が変化することです。ドイツ語やロシア語を学んだことがある方にはお馴染みかと思います。

ウラル語族の言語は、共通して名詞が格変化します。ドイツ語やロシア語の格変化は4つや6つくらいですが、ウラル語族の言語は格変化が豊富な場合があります。

とくにヨーロッパのウラル語にその傾向が強くて、フィンランド語とエストニア語は14格、ハンガリー語は18格前後あります。とくに場所を表す格(「~へ」とか「~の中で」とか)が豊富。

それ以外にも、オスチャーク語は3つ、サモエード諸語のネネツ語は7程度。北サーミ語は8格あり、モルドヴィン語は11格あるなど格変化一つとっても非常に多様性があります。

膠着語である

ウラル語は、概して膠着語(こうちゃくご)といわれます。少し言葉で説明するのは難しいので、僕が知っている唯一のウラル語・フィンランド語の例を用いて解説します。

フィンランド語では、たとえばtalo(「家」)という単語を格変化、「~の中に」を意味する内格にしたい時は-ssaという語尾をつける、といった具合になります。

-ssaは、つけられた名詞が内格だよっていうのを示す指標。1つだけ。こういった1つの役目をもつ小さな部分(接尾辞と言います)をくっつけていくのが膠着語の特徴

くっつけるのは何も単語の後ろだけとは限りませんが、フィンランド語では基本的に単語の後ろにどんどんくっつけていきます。

くっつけるのも格変化語尾だけでなく様々な「部分(=接尾辞)」があります。

たとえばautoという単語を例にとるとこんな風に変化します。

auto-ssa車-の中で
auto-lla車-で
auto-n車-の
auto-na車-として
auto-i-ssa車-[複数]-の中で
auto-i-ssa-mme車-[複数]-の中で-私たちの
auto-i-ssa-mme-kin車-[複数]-の中で-私たちの-も(also)
auto-i-ssa-mme-kin-ko車-[複数]-の中で-私たちの-も-か[疑問]

一番最後のauto-i-ssa-mme-kin-koは、「私たちの車の中でも?」という意味になります。車は1台以上あります。

この表を見て、何か気づきませんか。つまり「~の中で」はいつでも-ssa、複数を表すのは-i-と基本的に決まっています。この1人1役なのも膠着語の特徴です(まあいつも同じとは限らないんですが)。

たとえばロシア語の語尾-овは「男性名詞である」ことと「複数形である」ことと「属格である」ことの3つを一気にあらわします。膠着語では、こういった1人何役もこなす接尾辞があまりないのです。

動詞でも同じようになります。laulaa(「歌う」)を例にとると、

laula-n歌う-[1人称単数]
laula-t歌う-[2人称単数]
laula-a歌う-[3人称単数]
laula-t-ko歌う-[2人称単数]-か[疑問]
laula-massa歌う-っている
laula-minen歌う-こと
laulaa-kseen歌う-ために[3人称]

laulaminen「歌うこと」は動名詞なので、↑のautoと同じように変化させることができます。意味が通るかはともかくとして。

この「後ろにどんどん付け足していく」特徴がおそらく、フィンランド語と日本語の文法が似ているといわれる理由ですね。あとはトルコ語などのテュルク諸語とも似てると言われます。

母音調和がある

ウラル語族の特徴は母音調和(Vowel Harmony)。ある言語の持つ母音を2~3つのグループに分け、一つの単語の中には1つのグループの母音しか出現できないとするルールのこと。

チェレミス語、東オスチャーク語にもあるので普遍的(母音調和がなくなったエストニア語は例外的)。グループの数は2つだったり3つだったり。

母音調和についても、フィンランド語の例を使って説明します。

フィンランド語では母音は前母音と後母音と中母音に分けられます。

前母音y, ä, ö
後母音u, a, o
中母音e, i
[]

フィンランド語の母音調和では、前母音に入っている母音(y、ä、ö)と後母音に入っている母音(u、a、o)は1つの単語の中で共存できません(合成語ならok)。

maitoという単語は大丈夫でも、maitöやmäitoは成立しません、ということになります.。中母音(e、i)はどの母音とも共存できます。

それが何に関係してくるかというと、格変化語尾などの「小さな部分をくっつける」時。

くっつけられる単語が前母音を含む単語か後ろ母音を含む単語なのかで、その「小さな部分=接尾辞」が微妙に形が変わるんですね。接尾辞にはそれぞれ前母音バージョンと後母音バージョンがあるわけです。

例を見ていきましょう。

先ほどのautoはぜんぶ後母音なので、「車の中で」といいたいときはautoに内格語尾の後母音バージョンである-ssaをつけます。

一方、たとえばlyhty「ランタン」やpöllö「フクロウ」のように前母音をもつ単語だった場合、後母音バージョンはつけることができず、前母音バージョンである-ssä(点々がついてる)をつけ、lyhdyssäやpöllössäとしなければいけないのです。

後母音を含む格変化語尾をつけてlyhtyssaやpöllössaにしてしまうのは間違いになります。

なのでlyhtyやpöllöでautoissammekinkoのようなことをしようとすると、lyhdy-i-ssä-mme-kin-kö、pöllö-i-ssä-mme-kin-köとなります。ちょっと言葉の意味がおかしい気がしますがまあいいでしょう。

(lyhtyがlyhdyになっているぞと思った方、これはフィンランド語の子音階程交替というルールによるもので誤字ではありません。興味のある方は「増える減るいなくなる。フィンランド語の子音階程交替(kpt交替)とは」をご覧ください

動詞も一緒。laulaaは後母音の動詞です。

たとえばlähettää「送る」のような前母音を含む動詞なら、活用はlähetä-n、lähetä-t、lähettä-ä、lähetä-t-kö、、lähettämässä、lähettäminen……となります。

じゃあどちらとも一緒になれる中母音しかない単語はどうなるんでしょう? この場合は前母音バージョンを使います。まあ、eもiも舌の前の方で発音しますし。kivi「石」ならkive-äとかkive-stäとなります(iがeになっているのは間違いじゃないよ)。

エストニア語では母音調和が消滅してて、Aitähみたいに前母音と後母音が混在するケースもあります。モルドヴィン語でも消滅したものの、ある程度痕跡が残っているようです。

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ウラル語を聴いてみよう

エストニア語、フィンランド語、ハンガリー語、コミ語、マリ語、メアンキエリ(スウェーデン北部のフィンランド語の変異種)、ネネツ語、北サーミ語、ウドムルト語、ヴェプス語、ヴォロ語の順番です。

こちらのプレイリストには、かなりの数のウラル語の録音が収録されています(ちなみにこのチャンネルでは、ウラル語以外にも色々な言語の音が効けて面白いですよ!)。

参考文献