外国語を学ぶ上で、発音は非常に重要なパート。発音をそれこそ完璧にしなくても意思疎通は可能ですが、できれば完璧に近づけて発音間違いによる誤解を防ぎたいもの。
この記事では、フィンランド語の発音についてまとめました。各アルファベットの発音方法から、フィンランド語のアクセントやイントネーション、誤飲調和や子音階程交替まで解説しています。
音源は僕の方で用意できなかったので、ネイティブの発音を単語ごとに確認できるFORVOへのリンクを貼っています。発音が聴きたい方は単語のリンクをクリックして、再生ボタン(横向き三角形のアイコンです)を押してみて下さい。
カタカナで発音を書いてありますが、あくまで便宜上併記しているだけです。特にフィンランド語の母音はカタカナで正確に表せないものも多いので、参考程度にとどめてください。
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フィンランド語のアクセント
フィンランド語のアクセント(正確に言えば「強勢」)は、常に単語の最初の音節に置かれます。最初の母音を強く発音する、覚えておけば基本的に間違いはありません。
- sata(サタ)
- moottori(モーットリ)
- ruotsalainen(ルオツァライネン)
2つの単語が合体してできたいわゆる「合成語」の場合は、最初の単語の最初の母音を強く発音(第一アクセント)し、2番目の単語の先頭の母音に少し弱いアクセントをつけます(第二アクセント)。
フィンランド語のアルファベットについて
フィンランド語のアルファベットは、A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、O、P、Q、R、S、T、U、V、W、X、Y、Z、Å、Ä、Öの29文字となっています。
ただし、C、Q、X、Zについてはほぼ使われないため、ここでは説明を省きます。
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母音
フィンランド語の母音は、日本語よりも多く全部で8つ(A、E、I、O、U、Ä、Ö)。
フィンランド語の母音にはその全てに長短の区別があり、文字を2つ並べて書くことで区別されます(sataとsataa、tuliとtuuli)。ちなみに長母音は日本語で言うと長音「ー」をつけた「あー」とか「うー」みたいに長く引き伸ばした母音をいいます。
ちなみに日本人にとって難しい母音はUとY、Ä、Ö、次いでOです。
A
Aは「アー(aa)」と呼ばれます。
フィンランド語には2種類の「ア」があり、AとÄという別のアルファベットで区別されます。こちらのAはいわゆる「舌の後ろで発音するア」です。日本語の「ア」とは違う発音です。
発音のしかたとしては、日本語でふつうに「ア」と言いながら、舌を口の奥の方(舌の根っこの方)にずらします。すると同じ「ア」でも何となく聞こえ方が変わってくるはず(「アォー」というような響き)。それがフィンランド語のAです。
Aが使われている例
E
Eは「エー(ee)」と呼ばれます。
こちらは日本語の「エ」で構いません。英語やフランス語によくある「広エ」と「狭いエ」はフィンランド語では区別されません。
Eが使われている例
I
Iは「イー(ii)」と呼ばれます。
日本語の「イ」で対応できますが、唇を横に引き延ばすと良いでしょう。基本的にフィンランド人はこのIを唇を横に延ばして発音します。
Iが使われている例
O
Oは「オー(oo)」と呼ばれます。
日本語の「オ」とは少し違います。日本語の「オ」は唇をあまり丸めませんが、フィンランド語のOは唇をちゃんと丸めて発音します。
Oが使われている例
U
Uは「ウー(uu)」と呼ばれます。
日本人には要注意の発音。日本語の「ウ」に似ていますが、こちらは唇を丸めて(あるいは尖らせて)発音するので、日本語の「ウ」よりもこもった音になります。
Uが使われている例
Y
Yは「ウュー(yy)」と呼ばれます。
Yは日本人にとって厄介な母音です。日本語の「ウ」に聞こえるけれど「ウ」ではないし、カタカタで書くときも「ウ」を使う人や「ユ」を使う人もいます。つまり仮名では正確に書き表せません。(ちなみに当ブログでは統一して「ウュ」と書いています)
Yの発音は、「イ」と言ったまま唇をすぼめるとできます。もちろん実際に話す時はこの2つを同時にする必要があります。かなり難しく聞こえますが、慣れればどうってことありません。
難しいのがUとの発音の仕分け方。UとYはどちらも唇をすぼめて発音しますが、Uは舌の奥の方を盛り上げて発音するのに対して、Yは舌先の方で発音します。
Yが使われている例
Ä
Äは「アェー(ää)」と呼ばれます。
フィンランド語の「ア」には2種類あると書きましたが、これがもう一方の「ア」です(もう一つはA)。アルファベットのAの上に2つの点々がついています。
Aは舌の奥のほうで発音するAですが、このÄは舌の前の方で発音します。英語のcanのaに近い発音です(気持ち少しだけ口を大きめに開けます)。日本語の「ア」に比べて少し濁った、あまり綺麗じゃないような響きがしますね(個人の感想です)。
Äが使われている例
Ö
Öは「オェー(öö)」と呼ばれます。
Öも日本人にとって非常に厄介な母音です。ドイツ語やフランス語が話せる人には比較的容易です(ドイツ語のÖ、フランス語のeuやœuと同じ)。
発音のしかたは、「エ」と言ったまま唇をすぼめます。Yと同様に、実際に話す時はこれを一度にやらないといけません。
Öが使われている例
Å
Åは「ルオツァライネン・オー(ruotsalainen oo)」と呼ばれます。「スウェーデンのO」という意味です。
その名が示す通り、スウェーデン語由来の人名などにしか使われません。発音はoo(Oの長母音)です。
二重母音
フィンランド語には二重母音というものがあります。母音が二つくっついたものを一音節として扱うものです。最初の母音を強めに、後ろの母音を弱めに発音します。ただし、2つの母音を同じくらいの強度で発音しても意思疎通では問題なく行えます。
フィンランド語の二重母音は、ai、au、ei、eu、ey、ie、iu、iy、oi、ou、ui、uo、yi、yö、äi、äy、öi、öyの18種類。基本的に上の母音を続けて発音すれば大丈夫です。ここではこれらの二重母音のうち比較的難しいものをとりあげます。
- eu……「エウ」。eの後にuを発音する時、唇をすぼめるよう意識しましょう。例:euro「ユーロ」、eukko「妻」
- yö……「ウュオ」。最難関レベルの難しさです。Yを発音しながら、唇は丸めたまま顎を下にスライドさせるようにおろします。例:yö「夜」syödä「食べる」
- äy……「アュ」。これも最難関レベルの難しさ。Äを発音しながら、そのまま舌先と唇を前に突き出すイメージで動かします。例:käydä「行く、訪れる、合う」
- öy……「オュ」。これも最難関レベルの難しさです。Öを発音して、唇の形と舌の位置を保ったまま顎を上に動かしてみましょう。例:löyly「ロウリュ」
やはりウムラウト符号(2つの点々のこと)がついたものはかなり難しいですね。苦戦している方も多いようです。löyly「ロウリュ」の発音は、イメージと違ったっていう方が多いんじゃないかなあ。
もしyötön yö「白夜」がちゃんと言えたら達人クラスだと思います(格変化も全部……ね)。
子音
フィンランド語は子音が少ない言語です。子音の数は多く見積もっても16なので、ヨーロッパの言語に比べ音素が少ないといわれる日本語よりも少ないんです。
B
Bは「ベー(bee)」と呼ばれます。外来語でしか使われません。日本語のバ行の発音で大丈夫です。
Bが使われている例
D
Dは「デー(dee)」と呼ばれます。いちおう、日本語のダ行の音と同じです。
Dはフィンランド語でも特殊な子音で、方言によって発音のしかたにかなりの違いが出ます(フィンランド語由来の単語の場合は、そもそも発音しない人も多いくらい)。
外来語でDが入っている場合は、発音することが多いですね。
Dが使われている例
F
Fは「アフ(äf)」と呼ばれます。外来語でしか使われません。
英語やフランス語などのFと同様に、上の前歯と下唇を接近させ、空気を通すことでFを発音します。日本語の「ファ」は両唇で発音するので、微妙に違います。
Fが使われている例
G
Gは「ゲー(gee)」と呼ばれます。単独では外来語にしか使われません。日本語のガ行と同じです。
フィンランド語由来の単語でも「ng」という組み合わせで用いられますが、これについては後の「NG」の項目で説明します。
Gが使われている例
- graavilohi「グラブラックス(サーモンとハーブ等を使った前菜)」
- grillata「グリルする」
H
Hは「ホー(hoo)」と呼ばれます。
基本的には日本語のハ行や英語のHと同じと考えて構いませんが、少し注意が。Hが他の子音の直前に来た場合、場合によっては音が変わり、舌の奥の方で発音する摩擦音になります(ドイツ語のchに近い音)。
Hが使われている例
J
Jは「ィイー(jii)」と呼ばれます。
Jはフィンランド語では、日本語で言うヤ行の音です。英語やフランス語みたいにジャ行にはならないことにご注意ください。
Jが使われている例
K
Kは「コー(koo)」と呼ばれます。日本語のカ行で大丈夫です。kkと並べて綴ると、小さいツが入った音(つまり長音)になります。
Kが使われている例
L
Lは「アル(äl)」と呼ばれます。英語のLと同じ。側面接近音と呼ばれる音で、日本語のラ行とは違います。舌先を歯茎にくっつけ、舌の側面を口の内側に近づける風にして発音します。llと2つ並んでいるばあいは、近づける時間を少し長くします。
Lが使われている例
M
Mは「アム(äm)」と呼ばれます。日本語のマ行と同じ。mmと綴った時は、「ンマ」のように伸ばした発音になります。
Mが使われている例
N
Nは「アン(än)」と呼ばれます。日本語のナ行と同じで大丈夫。nnと2つ並んだときは、「ンナ」のように長く伸ばして発音します。
Nが使われている例
NG
NGは厳密には一文字ではありません。NとGが並んだものです。
この場合はGをはっきり発音せず、「鼻濁音のガ行」を長く発音します。鼻濁音とは呼気が鼻に抜けるたぐいの音で、鼻濁音のガ行は「カ゜」と書かれることもありますね。「カンガク」とか「シンガク」の「ンガ」をこの鼻濁音で発音する人もいるはず。
NGが使われている例
P
Pは「ぺー(pee)」と呼ばれます。ppと綴った時は「ッパ」のように小さいツが入った音になります。
Pが使われている例
R
Rは「アル(är)」と呼ばれます。
フィンランド語のRは巻き舌です。とはいってもDRRRといつもべらんめえ口調をかますのではなく、一度だけ舌先を震わすようにするのが良いですね。
また、rrと綴ると、これこそ本物の巻き舌になります。ドゥラララと下を震わすのを少し長くしましょう。
Rが使われている例
S
Sは「アス(äs)」と呼ばれます。日本語のサ行と同じ発音です。ただ、siと綴っても「シ」ではなく「スィ」と発音しましょう。日本語の「シ=shi」は全く別の音なので、あくまで「si」、です。
Sも、ssと綴れば小さいツが入った長めの発音になります。
が使われている例
T
Tは「テー(tee)」と呼ばれます。日本語のタ行の発音で問題ないでしょう。ttと2つ重ねて綴ると、「ッタ」のように小さいツが入った音になります。
Tが使われている例
TS
TSは文字ではなく、TとSの合字です。アルファベットの一文字ではないものの、少し特殊なのでここで解説を。
TSの発音は、標準語では/tts/となり、「ッツァ」のように小さいツの入ったツァ行のようになります。ただ口語では”tt”と同様「ッタ」で代用する人もいますし、方言によっては”ht”「フタ」となることもあります(例:mehtä=metsä=「森」)。特に理由がなければ「ッツァ」と発音するといいでしょう。
ちなみにTSが単語や文の先頭に立つことは、一部を除きまずありません。例外はtsemppiä!「がんばれ!」くらいかな。
TSが使われている例
V
Vは「ヴェー(vee)」と呼ばれます。英語のvと同じか少し摩擦が弱くなった音です。日本語のバ行とは違うので注意。
VはFの有声音(発音するときに声帯が震えているもの)で、上の前歯と下唇を近づけて、呼気を通すことで発音します。
Vが使われている例
W
Wは「カクソイス・ヴェー(kaksoisvee)」と呼ばれます。カクソイス・ヴェーは「二重のV」という意味です。
Wは通常使われません。ただ古く(それこそ100年以上前とか)に使われていたことがあるため、古めかしさを出したい場合にWが使われることがあるようです。発音はVと同じ。
Wが使われている例
- Mika Waltari「ミカ・ワルタリ(20世紀のフィンランドの作家)」
注意すべき長子音
フィンランド語は子音も長短で区別しますが、これは日本語にもあるので基本的には問題ないでしょう。
ただし日本人でも注意すべきなのが、長母音+長子音のパターンと、子音+長子音のパターン。
長母音+長子音のパターンは、例えばpäättää「決める」やsaakka「~まで」などのようにダブル母音の直後にダブル子音が来るもの。「バターっぽい」と言う感覚です。
子音+長子音のパターンは、sinkku「独身」kelkka「そり」kurkku「キュウリ」のように子音(NかLかR)の直後に長子音が来るもの。これも「~っぽい」戦略が使え、「日本人っぽい」という感覚でいいでしょう。
ただしLやR入るものは、間に「ウ」などの母音を挟まないようにしましょう。
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フィンランド語のイントネーション
フィンランド語独特のイントネーションは、特に疑問文において顕著です。というのも、フィンランド語ではふつうの文と疑問文でイントネーションが変わらないから。
日本語や英語を話しているとき、疑問文なら文を言い終わるにつれて声の高さが挙がっていきますよね。フィンランド語ではそれをせず、ふつうの文と同じように末下がりのイントネーションで言う訳です。
- Do you know when Taro’s birthday is?(⤴)
- 太郎の誕生日いつか知ってる?(⤴)
- Tiedätkö, milloin Taron syntymäpäivä on?(⤵)
分かりやすく言うと、「太郎の誕生日いつか知ってる。」と言う時と同じイントネーションで「太郎の誕生日いつか知ってる?」と言うわけです。
母音調和
他のウラル語族の言語やトルコ語などのアルタイ諸語のような「母音調和」が、フィンランド語にもあります。
母音調和とは、「母音をいくつかのグループに分け、一つの単語の中では一つのグループに属する母音しか出現しない」というルールのこと。母音が多いフィンランド語では、おそらく発音を簡単にするためにこの母音調和が適用されます。
フィンランド語の母音は8つありますが、それらは「前母音」「後母音」「中立母音」3つのグループに分けられます。
前母音 | 後母音 | 中立母音 |
ä、ö、y | a、o、u | e、i |
母音調和のあるフィンランド語では、一つの単語の中では「前母音」か「後母音」のどちらかのグループの母音しか出現できません。KuopioやJyväskyläはOKだけど、KuöpiöとかJyvaskylaという単語はあり得ない、ということ。
これが単語に語尾を追加する時にも適用されます。たとえばある単語の内格を作りたい場合。内格の語尾は-ssäか-ssaと2種類ありますが、その単語が「前母音」か「後母音」のどちらを含んでいるかで使い分けます。Vantaaなら母音なので同じ後母音の-ssaをつけてKuopiossa、Jyväskyläなら前母音なので同じく前母音の-ssäをつけてJyväskylässäとしなきゃいけません。
前母音と後ろ母音を混同してKuopiossä、Jyväskylässaとしてしまったらは文法的に間違い、となります。
ちなみにKuopio(クオピオ)とJyväskylä(ユヴァスキュラ)はどちらも、フィンランド南部の内陸にある町の名前です。
ちなみに中立母音はどのグループの母音とも共存できます(例:päivä、paita、Tampere)。単語に中立母音しかない場合は、前母音の語尾をつけます(Helsinki→Helsingissä)が、一つでも後母音が入っていれば語尾を変える必要があります(Tampere→Tampereella)。
母音調和はアジアの言語に多くて、ヨーロッパの言語で母音調和があるのは結構珍しいです。フィンランド人がアジア系と呼ばれる一つの由縁なのかな、と個人的に推測してます。
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子音階程交替
フィンランド語の発音する特殊な現象で、「子音階程交替」というものがあります。
ざっくり言えば、「単語が変化するときに最後の子音が変化したりする」現象なのですが、かなり複雑なため別記事にて解説しています。
この子音階程交替で、たとえばHelsinkiがHelsingissä「ヘルシンキで」になったり、yötön yöがyöttömät yöt(複数形)に変化したりします。詳しくは下のリンクからどうぞ。
おわりに
以上、フィンランド語の発音ルールを一通りまとめました。
フィンランド語はヨーロッパ言語に比べると、日本人にとっては発音が易しい部類に入るかと思います。ただ、ちゃんと習得するとなるとけっこう複雑なルールがあるので少し大変。
フィンランド語を学んでみたいというかたは、「フィンランド語学習にヘッドスタートを。初学者におすすめの教材を紹介!(独学用)」という記事で教材をまとめましたのでご覧ください。
Thumbnail Image by blickpixel / Pixabay
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