こんにちは。めいげつです。

結局、何個あるの?「悪魔の言語」フィンランド語の格変化のまとめ」では、フィンランド語の格変化をまとめて解説しました。

こちらでは、フィンランド語のさらなる厄介な文法ルール「子音階程交替(kpt交替)」の話をいたします。

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子音階程交替とは?

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子音階程交替(しいんかいていこうたい) は、格変化や動詞の活用のときに、最後の音節で発生する音韻的な現象…… つまり発音に関する現象です。kpt交替(コーペーテー交替)とも呼ばれます。

フィンランド語ではastevaihtelu(アステッヴァイヒテル)、英語ではconsonant gradationといいます。

フィンランド語では格変化や動詞が活用するのは知っての通りと思いますが、その時語幹の発音が少しだけ変化します。

具体的にどういう時に変化するかというと、フィンランド語の破裂音(p、t、k)が単語の最後の音節に登場するときに発生します(なのでkpt交替と呼ばれるのです)。

さらに少し専門的な言い方をすると、この破裂音をともなう音節は、 「強階程」と「弱階程」というグループに分けられていて、格変化や活用をするときに「強階程」の発音が「弱階程」の発音に変化する(あるいはその逆)ということ。

まあこう言ってもすごく分かりにくいですし、個人的にそもそも階程という単語がそもそも日本語なのか定かでないので、具体例を交えながら見ていきましょう。

強階程と弱階程

子音階程交替はフィンランド語を含むウラル語独特のルール(エストニア語やサーミ語ではもっと複雑なよう)。格変化と共に、初学者の方を戸惑わせる厄介なルールです。

強階程と弱階程は以下のようになっています。フィンランド語のウィキペディアを 読んだ方は見たことがあるでしょう。

 強階程 弱階程
量的交替ppp
ttt
kkk
質的交替pv
td
k消える
mpmm
ntnn
nkng
hthd
ltlt
rtrt
hkehje
lkelje
rkerje
ukuuvu
ykyyvy

基本的に破裂音k, p, tの数が多いほうが強階程で、少ないあるいは全くないほうが弱階程。破裂音というのは鼻音(nとかmの音)や流音( lやrの音)に比べて発音しにくいので、このグループ分けには納得できます。

そして子音階程交替には量的なものと質的なものがあって、量的なものは単純に破裂音の数が増える/減るタイプの変化で、質的なものは破裂音そのものが全く別の発音に変化するタイプのものです。

量的な変化は、破裂音が母音と母音の間にあるか、もしくは母音とソノリティの高い子音(ここでは鼻音と流音のことです)の間にある時に起こりますが、質的な変化は上の表のものが母音の間にある場合のみ起こります。

さて、この強階程と弱階程がどう変化するかというと、まず名詞/形容詞が格変化するとき(フィンランド語では名詞と形容詞は形態論的に似ているのでひとめとめにします)。

特に、名詞/形容詞の最後の音節に↑の「強階程」の子音があり、に発生します。

具体例を見てみましょう。

  • seppä(鍛冶)
  • kukka(花)
  • rankka(きつい)
  • tupa(小屋)
  • maku(味)
  • silta(橋)
  • kenkä(靴)
  • kurki(鶴)
  • luku(数字)

そしてこれらの名詞が格変化し、最後の音節の直後に子音がきて閉音節になったときに、「強階程」の子音(下線部)が対応する「弱階程」の子音に変化します。

ちなみに閉音節とは、「パン」、「bread」、「all」など、子音で終わる音節のことです。母音で終わる音節の事は開音節といいます。

名詞の語尾に子音を1つだけ追加するタイプの格(-nみたいに)や、子音2つ+母音するタイプの格(-staみたいに)になった場合は、閉音節になります。子音階程交替が起こります。

逆に子音1つ+母音(-naとか)や、単に母音を追加するだけの格(+a)の場合は開音節ですね。つまり子音階程交替は起こりません。

入格(語幹の最期の母音を伸ばす+n)の場合は閉音節になりますが、語幹の最後の音節の直後には母音がくるので子音階程交替は起こりません(詳しくは下の表の「入格」のところを見てみてください)。

つまり、先に上げた名詞は 以下のように変化します。

原形属格出格分格入格
seppäsepänsepästäseppääseppään
kukkakukankukastakukkaakukkaan
rankkarankanrankastarankkaarankkaan
tupatuvantuvastatupaatupaan
makumaunmaustamakuamakuun
siltasillansillastasiltaasiltaan
kenkäkengätkengästäkenkääkenkään
kurki(語幹はkurke-)kurjenkurjestakurkeakurkeen
lukuluvunluvustalukualukua

最初の3つが量的、それ以外は質的交替になっていますね。

属格(-n)や出格(-sta)では閉音節になりますが、分格(+a)では開音節なので強階程のまま変化しません。

そして次に動詞の活用。動詞の活用のにおける子音階程交替も、名詞と同じです。とりあえず具体例を出してみます。

  • pitää(好む、みなす)
  • soittaa(鳴らす、楽器を弾く)
  • antaa(与える)
  • kertoa(伝える)
  • sulkea(閉める)
  • vaihtaa(変える)
  • soveltaa(適用する)

これに1/2人称(単複どっちでも)の変化語尾がつくと弱階程になります。

不定形1人称単数1人称複数3人称単数
pitääpidänpidämmepitää
soittaasoitansoitammesoittaa
antaaannanannammeantaa
kertoakerronkerrommekertoo
sulkeasuljensuljemmesulkee
vaihtaavaihdanvaihdammevaihtaa
soveltaasovellansovellammesoveltaa

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逆子音階程交替

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今までは「強」から「弱」へ変化していましたが、 なんとその逆、「弱」から「強」へ 変化することもあるのです。

この「逆子音階程交替」は、どちらかというと少数派で決まったパターンの名詞&動詞にだけ適用されます。その少数派とは「-eで終わる名詞/形容詞(一部例外あり)」「子音で終わる名詞/形容詞(一部例外あり)」「-llaで終わる動詞」「-taで終わる動詞」の4種類です。たとえば、

  • kastike(ソース)
  • hammas(歯)
  • tytär(娘)
  • hapan(酸っぱい)
  • ajatella(思う、考える)
  • puhjeta(破裂する)

の5つがあげられます。

実はこの「逆子音階程交替」、通常の子音階程とは少し異なる点があるのですが、それにはまず変化表を見てからにしましょう。

原形属格出格入格分格
kastikekastikkeenkastikkeestakastikkeeseenkastiketta
hammashampaanhampaastahampaaseenhammasta
tytärtyttärentyttärestätyttäreentytärtä
hapan happamanhappamastahappamaanhapanta
不定形1人称単数1人称複数3人称単数3人称複数
ajatellaajattelenajattelemmeajatteleeajattelevat
puhjetapuhkeanpuhkeammepuhkeaapuhkeavat

さてどうでしょう。最後の4つの単語では、最後の音節ではないですね。逆子音階程交替では、こういうことが起こるので注意が必要です。

考え方としては、下線を引いた子音は「強階程」に変化したいのに、その直後にある子音におさえこまれて変化できず、変化するとその呪縛が解き放たれて晴れて「強階程」になれるという感じでしょうか(僕はそういう風に覚えました)。

どうやって覚えればいい?

初学者が戸惑いがちな子音階程交替(kpt交替)。いtったいどうすれば良いのでしょう。

……まあ、これに関しては慣れていくしかありません。

ただ発音というものは基本的には発音しやすいように変化するもの。子音階程交替も発音しやすさを追及した結果しなので、慣れてしまえばなんともありません。

「kukkassaよりkukassaの方が発音しやすい!」と思えるようになればしめたものです。

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最後に

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あれこれ説明してきましたが、子音階程交替が起こる条件をまとめると以下のようになります。

  • 破裂音(k, p, t)を含む名詞/形容詞か動詞の最後の音節で(逆交替ならその限りではない)
  • 格変化や活用の時
  • 変化や活用の結果、直後に子音がくる閉音節になる場合(逆交替ならその逆)

以上、フィンランド語文法の厄介なルール「子音階程交替」またの名を「kpt交替」をざっと説明しました。非常に紛らわしいルールですが、ある意味フィンランド語文法の基盤をなす重要なルールです(これが間違っていると、格変化&活用のほとんどを間違えることになります)。

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