「難しい言語ランキング」というのは、基本的にナンセンスです。なぜなら言語の難しさは、究極は人によって違うから。
そう、言語の難易度は相対的なものなのです。
言語がどれくらい難しいかを決める大きな要因には、
- 自分の母語や、今までに学んだ言語との距離
- 使われている文字体系
- その言語への馴染み
- その言語を学ぶための教材の豊富さ
の4つがあると考えてます。その理由をこのページでシェアします。
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自分の母語や、今までに学んだ言語との距離
言語の難しさを計るときに真っ先に思いつくのが、「その言語が自分の母語や、今までに学んだ言語とどれくらい似ているか」ということ。
「似ている」というのは、
- 文法
- 発音
- 単語
の3つ点でどれくらい似ているかで決まります。
学んでいる&学ぼうとしている言語が、この3つの点で自分が知っている言語に近ければ近いほど、学びやすくなります。
さて、文法や発音、単語が似るというのはどんな理由があるんでしょうか?
同じ「語族」かどうか?
言語の世界には、「語族」というものがあります。これは、先祖が同じだというのが分かっている言語たちをまとめたグループ。
「インド・ヨーロッパ語族」「ウラル語族」「シナ・チベット語族」などの「語族」があります。
同じ語族に属する言語どうしなら、単語や発音、文法の面で似ていることが多くなります。同じ先祖から発達してので自然ですね。
でも、ただ語族が同じなら学ぶのが簡単かというと、まあそうシンプルな話でもないんですよね。
たとえば同じ「インド・ヨーロッパ語族」の言語でも、英語とロシア語とアルバニア語では発音も単語も全然違う。
(英語は例外だけど)フランス語やロシア語とかにある動詞の変化パターンとかは似通っていますが、その分発音や語彙の面で違いを感じると思います。
この場合は「語族」よりも「語派」を見てみるのがいいですね。
「語派」というのは、語族のなかでもさらに似ている言語をまとめたグループといっていいでしょう。
同じ語派の言語どうしは、同じ語族でも違う語派に入る言語どうしよりも似ていることが多い。
たとえばフランス語やスペイン語、イタリア語などはラテン語から派生したもので、インド・ヨーロッパ語族のなかの「イタリック語派」という「語派」でくくられます。
フランス語、スペイン語、イタリア語は非常に似ていますよね。フランス語は音韻変化が激しいので聞いただけだと分かりにくいですけど。
ほかにも、英語とドイツ語やオランダ語(ゲルマン語派)、ロシア語とチェコ語(スラヴ語派)などがそれぞれ同じ「語派」を形成します。
そういうわけで、自分の母語と同じ「語族」や「語派」に属する言語は、そうでない言語に比べて学びやすいと言えるでしょう。
いろいろな人が難しいと言うアラビア語だって、同じセム系の言語(ヘブライ語など)の話者と英語の話者では難易度が違ってくることでしょう。
この点は、日本語話者は不利。日本語と同じ「語族」に入る言語というのがほとんど分かっていないからです(諸説あり)。
歴史的&宗教的な要因にもよる
さて、先ほど自分の知っている言語と同じ「語族」や「語派」に属する言語なら学びやすい話をしましたが、実はそうでなくても似通っている場合があります。
歴史的な理由や、宗教的な理由によることも多いです。
たとえば、英語とフランス語。英語とフランス語は同じインド・ヨーロッパ語族でも、それぞれ「ゲルマン語派」と「イタリック語派」と違う「語派」に分類されています。
それでも、英語とフランス語には形が同じor似ている単語が多いのがわかります(possibleとか、beafとbœufとか、concernとconcernerとか)。
それは、11世紀後半のノルマン・コンクェストに続くフランス人王朝の支配で、フランス語語彙が大量に英語に入ってきたという歴史的要因によるもの。
これは他の言語にも当てはまりますね。たとえば日本語の語彙には中国語から入った「漢語」が大量にありますよね。
イスラーム圏の言語ではアラビア語の語彙が多くみられます。kれは宗教的理由ともとれますね。
試しにアラビア語、ペルシャ語、トルコ語で「本」を何というか調べてみて下さい。
また後でも説明しますが、現代世界では世界中の言語に英語から単語が入ってきています。とくにコンピューター関連の語彙に顕著ですね。
使われている文字体系
その言語で使われている文字体系も、もちろん難易度に影響しますね。
たとえばラテン文字を使う言語(英語など)の話者が、同じくラテン文字を使う言語を学ぶ場合は、その発音のルールを覚えれば文法や単語の学習に取りかかれます。
一方、自分の慣れた文字とは違う文字を使う言語を勉強するときは、その発音のルールにプラスして「その文字に慣れる」というプロセスを踏む必要があるので、難易度は跳ね上がります。
言ってしまえば、文字が違う言語の場合は、まず文字が読めないとスタートラインにも立てないわけなので(文字が同じ言語と比べたら、の話だけど)。
日本語を母語とする人が英語を学ぶときも、理屈の上では同じことです(日本人が不利過ぎて泣けてくる)。
でも、次の項目で説明する通り「馴染み」の問題もあるので、事情はちょっと違ってきます。
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その言語への馴染み
学ぶ前からその言語になじみがあるということは、外国語の習得のしやすさ、特に単語の覚えやすさに影響します。
日本語には、英語から入ってきたカタカナ語がたくさんありますよね。たとえば、
- 「ドア」
- 「ルーム」
- 「グラス」
- 「テーブル」
- 「スピード」
など日常生活でふつうに使うものばかり。
こういった英語由来のカタカナ語に小さい頃から日常生活で触れているお陰で、英語の単語習得は最初からある程度アドバンテージがあるといえます。
現代ではコンピュータなどテクノロジー関連の単語が英語から流入しているので、この傾向は先さらに加速するかも知れません。
そういえば日本語と英語は使う文字が違いますが、英語のアルファベットは日本でも広く浸透しているのでさほど抵抗は感じないですよね。
じっさいに英語以外の言語を学んでみると、「単語のなじみ」の影響力を強く感じます。例えば日本語への借用語が少ないロシア語などと比べてみるといいでしょう。
- 「ドヴィェーリ」
- 「コムナタ」
- 「スタカーン」
- 「スコーラスチ」
どれも馴染みのない単語ばかりですね。実際ロシア語は発音以上に単語を覚えるのが本当に難しいです。
その言語を学ぶための教材の豊富さ
言語そのものの難易度からは離れますが、教材がたくさん出版されている(orオンラインで見つかる)、または教材が手に入りやすいというのは大きな要素です。
「〇○語を勉強しよう!」と思い立っても、教材がないんじゃ学びようがないですよね。
英語やフランス語、中国語などの超メジャー言語は教材の量が本当に多いし、たぶんどの書店に行っても必ず見つかります。
オンラインの教材も豊富ですね。
ロシア語も世界では圧倒的メジャー言語ですが、上の3言語に比べると少し少なくなる印象。
教材が多いとそれだけその言語へのアクセスが容易になるだけでなく、種類の豊富な教材から自分に合ったものを選べるということでもあります。
国の公用語でもこれ以外の言語だと良くて数冊くらいしかないものもあり、それ以上のマイナー言語だともっと少ないことも。
そうなると自分に合わない教材で学ばねばならない状況に陥ることにもなり、結果的に「学びづらい」「難しい」というふうになってしまいますね。
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参考:難しい言語ランキング
記事冒頭で、「言語の難しさは相対的だ」とか「難しい言語さランキングはナンセンス」というようなことを書きました。
が、いちおう日本人向けとアメリカ人向けの言語の難しさをカテゴリー分けしたものがあります。
まずは、語学学校のDILAが分類したものから。日本人とアメリカ人にとっての難しい言語をクラス分けしています。
難易度 | 日本人の場合 | 米国人の場合 | |
---|---|---|---|
比較的易しい言語(例) | I | インドネシア語、韓国語、スワヒリ語、マレーシア語 | フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、スワヒリ語 |
II | スペイン語、ポルトガル語、トルコ語、中国語、ベトナム語 | ギリシャ語、ヒンディー語、インドネシア語、マレーシア語 | |
比較的難しい言語(例) | III | 英語、フランス語、ドイツ語、ハンガリー語、タイ語 | チェコ語、ハンガリー語、ロシア語、トルコ語、ベトナム語、タイ語 |
IV | ロシア語、ポーランド語、チェコ語、アラビア語 | 日本語、中国語、韓国語、アラビア語 |
アメリカ人にとっての易しい&難しい言語は、アメリカ合衆国国務省にも同様のまとめがあります。
カテゴリー | 学習にかかる時間 | 言語 |
---|---|---|
Ⅰ | 600~750時間 | イタリア語、オランダ語、スウェーデン語、スペイン語、デンマーク語、ノルウェー語、フランス語、ポルトガル語、ルーマニア語 |
Ⅱ | 900時間 | インドネシア語、スワヒリ語、ドイツ語、ハイチ・クレオール、マレー語 |
Ⅲ(一部) | 1100時間 | アイスランド語、アルバニア語、アルメニア語、ウルドゥー語、エストニア語、カザフ語、ギリシャ語、ジョージア語、ソマリ語、タガログ語、タジク語、チェコ語、ネパール語、ヒンディー語、フィンランド語、ベトナム語、ヘブライ語、ペルシャ語、ベンガル語、モンゴル語、ロシア語、等 |
Ⅳ | 2200時間 | アラビア語、韓国語(朝鮮語)、広東語、日本語、北京語 |
日本人の場合と米国人の場合を比較してみると、かなりずれがあるのが分かりますよね(アラビア語はどちらにとっても最難関のようですが)。
まとめ
以上、言語の難易度を決める4つの要因についてお話ししました。
内容をまとめると、
- 自分の母語や今までに学んだ言語と、学ぶ言語が同じ「語族」か「語派」に属するならより簡単になる
- 歴史的or宗教的な影響で語派の垣根を超えて距離が縮まることも
- 使われている文字体系が同じならやさしい
- 学び始める前からその言語に馴染みがあればやさしい
- その言語を学ぶための教材が豊富さならやさしい(学びやすい)
ということ。いかに「言語の難易度」が相対的なものかお判りいただけたでしょうか。
僕は言語オタクとして、「簡単な」言語から「難しい」言語含めて色々な言語に触れていきたいです。
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