正しく使っているつもりでも、実は間違っていたり、正確じゃなかったりする。そんな言葉、たくさんありますよね。
言語関連でもそういった言葉はいくつかあります(例:「母国語」「〇ヶ国語」など)。今回のテーマは「アルファベット」です。
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アルファベットとは「一文字一音素の文字体系」のこと
「英語を書くのに使う文字」という意味で「アルファベット」と言う人が結構いますよね。ですがこれ、正確には間違い。
アルファベットとは、「一つの文字が一つの音素に対応する表音文字体系」のこと。つまり表音文字の一種です。
「音素」とは、ざっくりいえば子音と母音をまとめて呼ぶ名前です。言語によっては、声調も音素のうちに入ります。
基本的には、子音と母音一つ一つに文字があてがわれていれば、アルファベットと見なされます。
いわゆるアルファベットは「ラテン文字(ラテンアルファベット)」
それでは英語やフランス語などで使われるあの文字たちはなんと呼べばよいのでしょうか?
「ラテン文字」というのが正解です。ちょっと専門的でカタいけれど。「ラテンアルファベット」ともいい、英語ではLatin Alphabetです。。そしてこのラテン文字はアルファベットの一種です。
もともとは古代ローマ(共和制ローマ、ローマ帝国)で広く使われた言語・ラテン語を表記するのに使われたからラテン語なのです。
ローマ帝国の崩壊後もカトリック教会では典例にラテン語が使われていて、さらにラテン語は知識階級の共通語でもありました。それで文字を持たなかったヨーロッパ言語を書くときにラテン文字が使われました。
今現在、ラテン文字は世界で最も多く使われている文字です。ラテン文字を使っている言語の一部をみてみましょう。
地域 | 言語 |
---|---|
ヨーロッパ | 英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ルーマニア語、コルシカ語、ガリシア語、カタルーニャ語、ドイツ語、オランダ語、スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語、アイスランド語、フェロー語、アイルランド語、ウェールズ語、コーンウォール語、マン島語、ブルトン語、ポーランド語、チェコ語、スロバキア語、クロアチア語、セルビア語、ボスニア語、スロベニア語、、ハンガリー語、リトアニア語、ラトビア語、フィンランド語、エストニア語、サーミ諸語のいくつか、バスク語、マルタ語など |
中東・アジア | トルコ語、クルド語、アゼルバイジャン語、ウズベク語、インドネシア語、マレー語、タガログ語、ベトナム語など |
太平洋州 | トンガ語、ハワイ語、ビスラマ語、マオリ語など |
アフリカ | アフリカーンス語、スワヒリ語、リンガラ語、ソマリア語、ハウサ語、イボ語、ウォロフ語、ヨルバ語、コサ語など |
南北アメリカ | ナワトル語、オジブウェー語、グアラニー語など |
ちなみに言語によってはラテン語に使われた文字だけでは表せない音が複数あります(たいていの言語がそうです)。そういったときに2文字を1つの音を表すのに使ったり、「ダイアクリティカルマーク」という補助的な記号を使ったりします。
たとえば英語のSHやTH、ドイツ語のSCHやÖとÜ、チェコ語のÁやČ、Ňといったもの。Öの上についている点々や、Čの上についているものがダイアクリティカルマークです。
英語はダイアクリティカルマークを使わないことで有名ですね。
ラテン文字以外のアルファベット
アルファベットとは、「一つの文字が一つの音素に対応する表音文字体系」のことでした。この定義に当てはまる文字は、他にも複数あります。たとえば、
- キリル文字
- ギリシャ文字
- ジョージア文字
- アルメニア文字
- ハングル
ロシア語やウクライナ語等で使われるキリル文字もアルファベットです。キリル文字とはいわゆる「ロシア文字」のことですが、ロシア語以外にも使うためこっちの方が正確です。
英語ではキリル文字のことをCyrillic alphabetといいます。スィリリックアルファベットです。
上の2つの言語の他、旧ソ連地域の言語(カザフ語、ブリヤート語、タタール語)や正教地域の言語(ブルガリア語、セルビア語、モンテネグロ語)の表記にも使われます。
ギリシャ文字は、ギリシャ語を書くのに使われるアルファベット。「一文字が一音素に対応する」アルファベットでは世界で最初のものと言われます。
ジョージア文字とアルメニア文字は、それぞれジョージア語とアルメニア語の固有の文字。どちらもコーカサス地方の言語ですね。
ジョージア文字はユネスコの無形文化遺産にも登録されている由緒ある文字なんですよ。
続いて、これは意外かもしれませんが、ハングルもアルファベットの一種です。というのも、きっちりと「一つの文字が一つの音素に対応」しているから。もちろんハングルの場合は「一文字」ではなく「一つの要素」がというべきでしょうが。
たとえばㅂは無気音のpに対応しているし、ㄲは濃音のk、ㅏはア(a)の音に対応していますよね。
もっとも、ハングルは頭子音と母音、そして末子音を組み合わせて一つの音節文字のような形を作る変則的な文字です。ただ、「一つの要素が一つの音素に対応している」という意味ではれっきとしたアルファベットなのです。
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各言語のアルファベットの文字数
アルファベットを使う言語の文字数は、言語によってかなりばらつきがあります。
ここでは、アルファベットを使う代表的な言語の文字数をみていきます。「アルファベット」であって「ラテン文字」だけとは限らないですよ。
- 英語:26文字
- フランス語:40文字
- スペイン語:27文字
- イタリア語:21文字
- ドイツ語:30文字
- オランダ語:27文字
- ポーランド語:32文字
- インドネシア語:26文字
- ロシア語:33文字
- ギリシャ語:24文字
- ジョージア語:33文字
- アルメニア語:40文字
ラテン文字かどうかに限らず、文字数はバラバラですね。ただラテン文字を使う言語の方が文字数が少ない傾向にあるように思えま。。
なぜ日本ではアルファベット=ラテン文字なのか?
おそらく英語、その他ラテン文字を使う言語の影響でしょう。
まず日本人にとって外国語の筆頭は英語。さらに、第二外国語として人気の高い言語の4つ(スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語)もラテン文字を使う言語
それに日本語をラテン文字表記するためのローマ字が整備され。町中あちこちで見かけるようになりました。隣国の文字であるはずのハングルやキリル文字よりも頻繁に見かけます。
キリル文字もアルファベットですが、北海道や北陸などの一部地域でしかキリル文字表記は見かけません。日本で最も全国的に広がっているアルファベットがラテン文字なので、自然にアルファベットといえばラテン文字になったのでしょう。
もしかしたら、「キリル文字もアルファベットだ」ということを知らない方も多いかも知れませんね。
ローマ字とは
一転、「ローマ字」とは、日本語を表記するためのラテン文字をいいます。ローマ字の「ローマ」は「共和制ローマ」や「ローマ帝国」のローマです。
言ってしまえばラテン文字の下位グループとしてローマ字があるわけです。
ローマ字には主に、
- ヘボン式
- 訓令式
という2種類の規格があります。
ヘボン式はジェームス・C・ヘボン(Hepburnなのでオードリー・ヘップバーンと同じ名字です)が考え出したもので、英語やラテン語の音韻にもとづいた表記法です。
たとえばシをSHIジをJI、ツをTSUとするのは英語の発音に基づいているからなんですね。仮にフランス語の発音に基づいていたらシがCHIになっていたかもしれません。
一方訓令式は、日本語の音韻を元にした表記法です。シはSIですし、ジはZI。ツはTUと書かれます。
僕らはヘボン式に慣れ過ぎていて一見理解が及ばない表記ですが、50音表を見ると納得です(シはサ行のイ段ですからね)。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。以上、アルファベット、ラテン文字、ローマ字の違いを解説しました。
重要なポイントをまとめると、
- アルファベットは一つの文字が一つの音素に対応する表音文字体系のこと
- 英語で使われる文字は「ラテン文字」という。アルファベット=ラテン文字ではない
- ローマ字は日本語を表記するためのラテン文字のこと
「アルファベット」と「ラテン文字」を混同しても大した問題にはなりませんが、ちょっと気になったので深堀しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ななし
さんこうになりました。ありがとうございます!
めいげつ
ななしさん
読んでいただきありがとうございます!