こんにちは。めいげつです。

世の中には、何千もの「言語」があると言われます。かたや何億人もの人が日常的に使う大言語から、かたや話し手が数人程度しかいない絶滅寸前の消滅危機言語まで。

世界には色々な言語がありますが、その中でも非常にまれな特徴を持った言語たちをいくつか、ここで取り上げてみました。

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1000年前と変わらない文法。アイスランド語

アイスランドの国旗
OpenClipart-Vectors / Pixabay

「言葉は生き物」といわれます。言語が実際に生きているかはともかく、言語というものは時代が移りゆくにつれ変化してゆくもの。それは発音しかり、語彙しかり、文法しかり。

発音はともかく、文法において1000年もの間変化がなかった言語がある、といえば驚くでしょうか?

それがあるのです。それもどこかのごく少数言語ではなく、国の公用語にもなっている言語。それが、北欧の島国アイスランドで話されるアイスランド語(Icelandic language)。

アイスランド人は大陸ヨーロッパ、特に北ヨーロッパやアイルランドにルーツを持っており、アイスランド語はスカンジナビアのノルウェー語、スウェーデン語と同じ北ゲルマン語。

しかし大陸の北ゲルマン語(ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語)がどんどん変化し語形変化が簡略化されていったのに対し、大陸から海で隔たれたアイスランドでは言語が大きな変化を被ることがありませんでした。

したがって、中世の時代の文法を色濃く残していると言われています。

では大陸の北ゲルマン諸語と、アイスランド語の語形変化を比べてみましょう。

スウェーデン語の dag の変化
単数複数
不定不定
主格dagdagendagardagarna
属格dagsdagensdagarsdagarnas
ノルウェー語の dag の変化
単数複数
不定不定
主格dagdagendagerdagene
属格dagsdagensdagersdagenes
アイスランド語の dagur の変化
単数複数
不定不定
主格dagurdagurinndagardagarnir
対格dagdaginndagadagana
与格degideginumdögumdögunum
属格dagsdagsinsdagadaganna

ノルウェー語等の大陸の北ゲルマン語では名詞の変化が8種程度に減っていますが、アイスランド語ではこんなに複雑な語形変化が残っているのです。

もちろん中世から現代にいたる長い間、使われなくなった語彙や新しく生まれた語彙もあります。

しかしアイスランド語の文法がほとんど変化していないお陰で、アイスランド人は中世の文学を翻訳せずそのまま読めるのだとか。

ただ発音については正確に記録などできないことから、時代を経て変化したかどうかは不明です。これは仕方のないことでしょう。

  • 出典:森田貞雄(1981)『アイスランド語文法』東京: 大学書林

2つの母音に対して子音は82。ウビフ語

英語には、日本語よりもいくつか子音が多くあります。LとRの違いとか、SとTHの違いに苦労した方がいるのではないでしょうか。

しかし世界にはもっと子音が多い言語があります。それが現在のジョージア辺りで話されていた言語、ウビフ語(Ubykh langauge)。

現在は母語話者がいなくなってしまったというウビフ語の子音の数は、なんと82。子音の数がたかだか十数個の日本語話者としては、想像もできない世界のように感じます。

なぜこんなにも子音が多いのでしょうか? 英語版ウィキペディアに、ウビフ語がどんな子音を持っているのかが詳しく載っています。

ウビフ語の子音がたくさんあるのは、日本語などによくある「p」「t」「s」などのシンプルな子音に加え、「放出音」や「口蓋化」、「口唇化」、「咽頭化」といったバリエーションがあるから。

「口蓋化」というのは「か」と「きゃ」の対立のように、kの音を発音すると同時に舌の平たい部分を押し上げることをいい、「円唇化」は唇を丸めること、「咽頭化」は舌の根をのどの方へ引き下げるものです。

ウビフ語ではそもそも数が多い子音にこれらの「~化」を(時には複数)加えることで82もの子音を作り出しているわけです。

一方ウビフ語を研究していたノルウェーの言語学者ハンス・フォクト(Hans Vogt)によれば、単純なgとk、k’(放出音)はウビフ・ネイティブの音韻にはないそう(ウィキペディアによれば外来語にしか現れない)。(出典)

これだけの数の子音を持ちながら、kとgの音素を持たなかったというのは意外に感じます。

  • 出典:Dumézil, Georges. (1959). Études oubykhs. Paris: A. Maisonneuve.

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母音がない文! チェコ語

OpenClipart-Vectors / Pixabay

日本語の音韻構造は非常にシンプルで、ほとんどの音節が子音+母音から成っています。

なので子音が2つ以上続くことはないわけではありませんが、そう頻繁にはありません。3つ以上となると皆無です。

そういう具合なので、英語を学んだことのある方は発音に非常に苦労したことでしょう。strengthとかtwelfthなど、複数の子音が平気で連続してあらわれます。

しかし悲しいかな、その上を行くのがチェコ語(Czech language)です。

子音が3つ続くなど朝飯前。それ以上に続くことがあるのです。

čtrnáct「14」やčtvrtek「木曜日」のようによく使う言葉にも、zmrzlina「アイスクリーム」のような甘い単語だって容赦なく、4つ以上連続した子音の集中砲火を浴びせてきます。

čtvrthrst「4分の1つかみ」みたいに、全く母音がない単語もあるのです。

でもそれに留まりません。チェコ語では、母音が1つもない文というのも可能なのです。

代表的なものが、Strč prst skrz krk「指を喉に突っ込め(stick your finger through your neck)」。

他にもあまり品がない文ですが、Prd krt skrz drn, zprv zhlt hrst zrn「モグラが一掴みの穀物を飲み込んで、草むらを通しておならした」という文も子音だけで成立してしまいます。

なぜこんなことが可能かというと、「r」と「l」が母音の役割を担えるから。よく見てみると、これらの単語すべてに「r」か「l」のいずれかが含まれているのが分かると思います。

「r」と「l」はどちらも子音ですが、「p」や「d」と違いずっと長い時間発音し続けることができるタイプの子音なので、これを母音代わりにして音節を作ることができるようです。

ちなみにチェコ語には、世界一難しい子音との噂もある「ř」 (大文字Ř)もあります。巻き舌とジャの音を同時に発音する珍しい音で、チェコ人にとっても難しいらしい。

Tři tisíce tři sta třicet tři stříbrných stříkaček stříkalo přes tři tisíce tři sta třicet tři stříbrných střech.「3333の銀のポンプが3333の銀の屋根に放水した」という言葉遊びもあるので、チェコ語の発音に自信がある方は試してみましょう。

  • 出典:黒田龍之助(2015)『チェコ語の隙間 : 東欧のいろんなことばの話』東京: 現代書館、金指久美子(2014)『チェコ語のしくみ』東京: 白水社

4種類の文字を使いこなす。日本語

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ここいらで我らが日本語にも言及しておきましょう。

日本語を日常的に使う方ならお分かりの通り、我々は日本語を書くときには、ひらがなとカタカナ、漢字の3種類の文字を使います

そしてこれら3種には頻度で劣りますが、ラテン文字だってよく使われます。ラテン文字とは英語などで使われる、いわゆるアルファベット。日本語ではローマ字ともいいますね。

英語は読めなくても、ローマ字で書かれた日本語ならみなさん大抵読めますよね(NATOをナトって読んだり)。

しかしこんな風に4種類もの文字を使う言語は、世界広しといえども大変稀なことです。

文字が2種類くらいならセルビア語(ラテン文字とキリル文字)、キリル→ラテン文字の過渡期にあるウズベク語などの例がないわけでもありません。しかしそれ以上となると非常に稀。

それに文字の数も多いです。仮名文字は50文字ほどありますし、漢字に至っては常用漢字だけで約2,000字もあります。

数字だって、アラビア数字と漢数字もありますし。

その4種類それぞれにある程度役割が決まっています。ひらがなは助詞や送り仮名に、カタカナは生物名や外国人名(一部を除く)、漢字は名詞や動詞の語幹など。

しかしそれだけに留まらず、同じ単語でもひらがな、カタカナ、漢字で書くので与える印象が違うとなると、恐らく日本語特有のことかと思われます。

(例:ひと-ヒト-人、しゅうまい-シュウマイ-焼売、かわいい-カワイイ-可愛いetc)

ラテン文字は仮名と漢字ほど使われませんが、学術論文などでは「Labov(1976)によると~」といった具合に、ラテン文字のまま人名を埋め込むことがよくあります。

英語圏などの論文で、文中にキリル文字やデーヴァナーガリーを入れるのはまずないので。

これだけ多種の文字を使い分けながら識字率も高いというのは、もはやさすがというほかありません。

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数十種類もの舌打ちを使い分ける。コイサン諸語

先ほど82もの子音があるウビフ語を取り上げましたが、世の中にはまだまだ面白い言語があります。それがコイサン諸語(Khoisan languages)です。

アフリカ南部、南アフリカ共和国やナミビア、ボツワナで話されています。コイサン諸語は、「諸語」というだけあっていくつかの言語の総称です。

そのコイサン諸語を特徴づけるのが、「吸着音」と呼ばれる独特な音。

「クリック」とも呼ばれる吸着音とは、ざっくりいえば舌打ちのこと。それ自体は何ら珍しいものではありませんが、これが言語の子音として採用されているのです。

吸着音ひとつとっても色々あって、舌先を歯の後ろにつける一般的なものから、舌先と歯で発音するもの(英語のthと同じポジション)、「L」と同じ場所で発音するものなどなど。

このコイサン諸語のなかでもコオ語(!Xóõ 、ター語Taaとも)は数において圧倒的で、83もの吸着音を使用するとのこと。

上であげた調音点の違いにプラスして、鼻に息を通す鼻音化をかけたり、発音と同時に空気を流す有気音化させたり、下の後ろの方で別の音を同時に発音したりするなど、吸着音としても様々なバリエーションがあるためこれだけの数になっているようです。

このコオ語がどんな吸着音を持つかについては、英語版ウィキペディアの記事にもかなり詳しく書かれています。

実はこのコオ語、母音もかなり複雑な体系を持っているらしく、5種類の母音を持ちながら、吸着音と同様に様々なバリエーションがあるようです。

  • 出典:Güldemann, T. (2000). Southern Khoesan (Tuu). In Vossen, R. (Eds.). The Khoesan languages. (pp. 75-78) London; New York: Routledge.

世界一少ないアルファベット。ロトカス語

パプアニューギニアの国旗
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世界一子音の多い言語があるとくれば、当然世界一子音が少ない言語だってあります。

それがパプアニューギニア東端のブーゲンヴィル島で話されている、ロトカス語(Rotokas language)。

なんとこのロトカス語は、子音だけでなく音素そのものが世界一少ないと言われています。

ロトカス語は母音は日本語と同じく5つありますが、子音は驚愕の6つだけ。その子音とは、無声と有声の両唇音、無声と有声の歯茎音(「t」の音がこれにあたります)、そして無声と有声の軟口蓋音(「k」がこれに当てはまります)。

口の中の「発音される場所」と「無声か有声か(つまり喉が震えているかどうか)」のみで決まるというわけで、要するに1つの子音のカバーする範囲が広いのです。

舌先で発音される無声音なら「t」でも「s」でも同じ音だし、両唇で発音される有声音なら「b」や「m」、また「v」だろうが同じ音として扱われる、といった具合。

ゆえに使われるアルファベットも少なく、たったの12種類のみ(A、E、G、I、K、O、P、R、S、T、U、V)。K、P、Tは無声音を表し、それに対応する有声音がG、V、Rの文字で表されます。SはTのバリエーションのようです。

  • 出典:Robinson, S. (2006). The phoneme inventory of the aita dialect of rotokas. Oceanic Linguistics, 45(1), 206-209. doi:10.1353/ol.2006.0018

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いちおう公式な「難しい言語ランキング」もある

いちおう言語別の難易度をランキングしたものもあるにはあります。それが、アメリカ外交官養成局(The Foreign Service Institute, FSI)が発表している(英語以外の)外国語の難易度ランキング(英語のサイトです)。

このランキングは、英語のネイティブが各外国語の習得にかかる時間をもとに言語の難しさをカテゴリーⅠ~Ⅳに分類したもの。Ⅰが英語ネイティブにとって最も簡単で、Ⅳが最も難しい言語のカテゴリーになります。

カテゴリーごとの、言語の習得にかかる時間は以下。

  • カテゴリーⅠ:約24~30週(600~750時間)
  • カテゴリーⅡ:約36週(900時間)
  • カテゴリーⅢ:約44週(1100時間)
  • カテゴリーⅣ:約88週(2200時間)

カテゴリーⅣの言語の習得には、カテゴリーⅢの言語の2倍のかかるとのこと。カテゴリーⅠの言語と比べてしまえばほぼ3倍です。

ではどの言語がどのカテゴリーに分けられているのでしょうか。

カテゴリー言語
イタリア語、オランダ語、スウェーデン語、スペイン語、デンマーク語、ノルウェー語、フランス語、ポルトガル語、ルーマニア語
インドネシア語、スワヒリ語、ドイツ語、ハイチ・クレオール、マレー語
Ⅲ(一部)アイスランド語、アルバニア語、アルメニア語、ウルドゥー語、エストニア語、カザフ語、ギリシャ語、ジョージア語、ソマリ語、タガログ語、タジク語、チェコ語、ネパール語、ヒンディー語、フィンランド語、ベトナム語、ヘブライ語、ペルシャ語、ベンガル語、モンゴル語、ロシア語、等
アラビア語、韓国語(朝鮮語)、広東語、日本語、北京語

この中で、アラビア語や中国語と並び日本語は最難関のカテゴリーⅣに分類されています。日本語は英語の母語話者にとっては非常に難しい言語のようです。

ここで紹介したアイスランド語とチェコ語はともにカテゴリーⅢとなっています。カテゴリーⅣの言語に比べ、ヨーロッパの言語である以上難易度は多少下がるのかなと思います。

ただこのランキングは英語のネイティブから見た言語の難しさに過ぎません。日本人含む非英語ネイティブにとっての言語の難易度を語るなら、また違う考え方をしなければならないでしょう。

まとめ

以上、今回は「エクストリームな特徴をもつ言語」として、世界の5つの言語を紹介しました。言語一つとっても、世界がいかに広いかよく分かります。

しかし言語というものは、どこまでも興味深いものですね! この中の言語を1つ、近いうちに学び始めてみようかなと思います。