「英語は正しい発音で話すべき」とか、「あの人の英語は発音が良い/悪い」とか「あなたの発音は間違っている」とか、誰かが言うの耳にしたことがある人はいませんか。
あと教室で英語の発音を頑張っている人に対して、冷淡な態度をとるクラスメートとか。心当たりがあるんじゃないでしょうか。
社会言語学の授業で「リングアフランカとしての英語(English as a Lingua Franca, ELF)」を少しかじった僕としては、こういった言説や態度には首を傾げざるをえません。
「正しい発音」や「ネイティブの発音」とは、いったい何なのでしょう? これだけ多くの人が英語を話している現在、まだそんなこと言っているんですか?
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英語は世界一広く話されている言語。でも……
まず前提知識として、英語がどれくらい話されているのか、どんな種類の和室によって話されているのか知る必要があるでしょう。
英語は非常にポピュラーな言語です。
日本人の我々にとっても、外国語といえば英語だし、町中やテレビの中に、ひいては僕たちの母語日本語の中にも英語がたくさんあります。
日本ではほとんどの人が学校教育で英語を勉強させられるので、英語を勉強したことのない人はほとんどいないかと思われます。
世界では19億人が英語を学んでいるとされます。19億人ですって。母語話者数世界最大の中国語(北京語)の母語話者数を軽くしのぐレベルで学ばれているという訳です。
そして何よりもこれ。昨今世界中で拡大しまくっている英語ですが、英語を話す非ネイティブは英語のネイティブより圧倒的に多いんです。
『English as a global language』の著者のデイヴィッド・クリスタルによれば、全ての英語話者においてネイティブがしめる割合はわずか20%ほど。
それ以外の80%は、第2言語かあるいは外国語として英語を話す人だということです。
英語のネイティブスピーカーは、世界的にみれば圧倒的少数派。これだけ英語が広まっていてネイティブはさぞご満悦かと思いきや、なかなかそうでもないようです。
こちらの記事のハンガリー人技師のエピソードが非常に象徴的ですね。
数年前の話ですが、ハンガリー人の土木技師が、サウジアラビアで7―8ヶ国の技術者からなる国際チームのメンバーとして働いていたときのことです。彼らはお互いに英語を使用して完璧に意思疎通ができるのに、そこにいた英国人の技術者とだけは、どうしてもうまく意思疎通ができません。そのため、彼が代表者として、その英国人に対して、チームメンバーの総意であると前置きし、「どうか、これからは、お願いだからみなに分かる英語で話してくれないか」と申し出たとのことです。
亀田尚己「ネイティブスピーカーとノンネイティブの立場の逆転現象」 ― BLOGOS
実際に僕がフィンランドに留学していた時も、フラットメイトのイギリス人留学生以外の友人はすべて、英語を外国語として話すフィンランド人学生や他国からの留学生でした。
僕もそれなりに英語を話しますが、ネイティブスピーカーの自然なスピードの英語はまだまだ速いなあと感じます。
一方、ノンネイティブ英語は一部地域出身の人々を除き非常に分かりやすいです。特に北ヨーロッパの人々。
英語はバリエーション豊かな言語
個性豊かなノンネイティブ英語
これだけ多くの人が英語を外国語として学んでいるいうことは、当然様々なバリエーションが生まれてきます。
非ネイティブの人は 生まれ育った地域も違えば母語も違うので、発音や文法において色々なバリエーションが出てきます。
そしてある一定の地域に1つのバリエーションが集中すると、それば地域に根差した1つのバリエーションになります。
有名どころでは、インド英語やシンガポール英語ですね。これらはもう英語の一バリエーションとしての地位を持っている気がします。
もちろん「インド英語」「シンガポール英語」と一括りにはできず、地域によって個人によって色々な種類があると思いますが。インド英語は特に。
ネイティブの英語だって1つじゃない
そしてみんな大好き「ネイティブ発音」。
僕の知る限り日本の英語教育では基本的にはいわゆる「アメリカ英語」なので、日本人 の多くてとってネイティブ発音といえば「アメリカ英語」でしょう。
承知の事とは思いますがアメリカ以外にももちろん、イギリスやオーストラリアや南アフリカなど、英語のネイティブスピーカーが多く住む国はたくさんあります。
そして先に挙げた「アメリカ英語」にも、たくさんのバリエーションがあり、「アメリカ英語」 という一つの英語が 存在するわけではありません (先ほどアメリカ英語に鍵括弧をつけたのはそのためです)。西海岸と東海岸では発音も違いますしね。
イギリスでも地方差がかなりありますし、階級差も大きいのが現状。
ロンドンの河口域英語(Estuary English)とスコットランドの英語(と一口にいっても様々ですが)にもかなりの違いがあります。コックニーも中々パンチがきいています。
「イギリス英語」というのはいわゆる容認発音(Received Pronunciation, RP)やBBC英語と呼ばれるものですが、これらを母語として話すのは非常に少ないのが現状です。
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本当は「正しい発音」なんてない
英語はノンネイティブがネイティブを凌駕するほど多い言語とは先ほど述べた通り。
そしてノンネイティブ英語にも色々な種類があって、さらにネイティブ英語にも色々な種類があります。
そんな中では何が「正しい発音」なのか判定するなんて不可能です。発音の正しさを判断する基準なんて非常に曖昧なものです。
もちろん、発音について一定のコンセンサスがあるのは認めます。fishをフォッシュと発音したらおそらく通じないのは想定できます。「正しい発音」を決めるのが難しいからって適当に発音していいわけではありません。
ただRを巻き舌で発音したり、Sundayをスンデイを言ってもおそらく理解してもらえるでしょう。結局は程度問題ですが。
まあ「自分はヒュー・グラントみたいな英語を話したい!」という具体的な目標があるなら、それはそれで全く良いと思います。僕もいわゆるBBC英語とかオックスブリッジ英語が好きなので似たようなものです。
ですが、発音の「正しさ」という虚像にとらわれて相手の英語を蔑むよう態度になってしまっては、多様性を重んじる現代のグローバル社会ではやっていけないのではと思います。
まあネイティブ至上主義の人も、色んな口・地域の人と英語で話していくうちに遅かれ早かれ気づくことだと思いますがね。
それともう一つ! 日本人は自分たちのアクセント(「訛り」という意味です)に関して非常に自虐的になる傾向がありますが、それこそ日本英語、Japanese English(もちろん侮蔑的な響きなく)を主張するくらいの気概があってもよいのではと思います。
ネイティブ英語はたくさんあるうちのいくつかの英語のバリエーションに過ぎず、自分たち日本人には自分たちの英語があるのだと。英語力なんてある程度身に付いたら後は話す内容が勝負ですから。
まあ独自性を主張しすぎて他の国の人たちに通じなかったら本末転倒なのでほどほどに抑える必要がありますが、案外通じますよ、日本人英語。
ここまで英語の話をしてきましたが、ある程度以上の話者数を抱える言語なら何語でも同じことですよ。フランス語しかり、日本語しかり、フィンランド語しかり。
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