フィンランドとスウェーデンは隣り合った国どうし。この地理的条件や、フィンランドがスウェーデンの一部だった歴史もあって、両国は文化的に非常に似通っています。
しかし言語を見てみると事情は全く変わります。フィンランド語とスウェーデン語は隣り合った言語なものの、実はお互い全く似ても似つかない言語なのです。こちらではフィンランド語とスウェーデン語の主な違いを紹介します。
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フィンランド語は祖先が違う
スウェーデン語はインド・ヨーロッパ語族
まず、スウェーデン語はインド・ヨーロッパ語族という言語グループに属する言語です。この語族というのは、同じ祖先をもつ言語の集まりです。つまり、メジャーなヨーロッパ言語(英語、フランス語、ドイツ語)と同じグループ。
インド・ヨーロッパ語族はその名の通り西はヨーロッパ、東はインドまで広がっている言語のグループです。あのヒンディー語やウルドゥー語、ペルシャ語、スリランカのシンハラ語もインド・ヨーロッパ語族です。
これらの言語は、単語が変化するパターンなど実は似通った部分が多いんです。具体的には名詞の格変化、動詞の人称変化など。ヨーロッパの言語なら、はラテン語やギリシャ語由来の語彙が多かったりします。
さらにインド・ヨーロッパ語族はいくつかのグループに分かれていて、スウェーデン語はそのうちのゲルマン語派というグループ。英語やドイツ語も同じゲルマン語なので、スウェーデン語はこの2言語にものすごく似ています。試しに文章を比べてみましょう。
<世界人権宣言第一条スウェーデン語版>
Alla människor är födda fria och lika i värde och rättigheter. De har utrustats med förnuft och samvete och bör handla gentemot varandra i en anda av gemenskap.
< 世界人権宣言第一条ドイツ語版 >
Alle Menschen sind frei und gleich an Würde und Rechten geboren. Sie sind mit Vernunft und Gewissen begabt und sollen einander im Geist der Brüderlichkeit begegnen.
< 世界人権宣言第一条英語版 >
All human beings are born free and equal in dignity and rights. They are endowed with reason and conscience and should act towards one another in a spirit of brotherhood.
良く知られた話かと思いますが、スウェーデン語はほかの北欧の言語とも似通っています。そちらは別記事にて詳しくまとめましたのでどうぞご覧ください。
フィンランド語はウラル語族
スウェーデン語はインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語はというグループの言語であると書きました。一方フィンランド語はウラル語族。つまりインド・ヨーロッパ語族とは祖先が異なるわけです。
ウラル語族は、ロシア東部の「ウラル山脈」あたりに祖先をもつと言われます(なので「ウラル」語族と呼ばれるのです)。
ウラル語族の言語たち西はフィンランドやハンガリー、東はロシア中部まで広がっています。南のインド・ヨーロッパ語族、北のウラル語族といったところでしょうか。
フィンランド語とスウェーデン語の単語をいくつか比べてみましょう。
単語 | フィンランド語 | スウェーデン語 |
---|---|---|
人 | ihminen | människa |
子ども | lapsi | barn |
電話 | puhelin | telefon |
空港 | lentoasema | flygplats |
サッカー | jalkapallo | fotbol |
伝統 | perintö | tradition |
大学 | yliopisto | universitet |
新しい | uusi | ny |
赤い | punainen | röd |
フィンランド語の人権宣言を上のスウェーデン語・英語・ドイツ語版と比べてみても、いかにフィンランド語がゲルマン語たちと違うかが分かります。
<フィンランド語サンプルテキスト>
Kaikki ihmiset syntyvät vapaina ja tasavertaisina arvoltaan ja oikeuksiltaan. Heille on annettu järki ja omatunto, ja heidän on toimittava toisiaan kohtaan veljeyden hengessä.
スウェーデン語は文法がシンプル!
文法については、フィンランド語もスウェーデン語も学んだことのある僕の印象をお話しします。
まずフィンランド語に比べて、スウェーデン語は文法がシンプルです。文法がシンプル=語形変化などのルールが少ないと考えて頂いて構いません。
たとえばkrona(クローナ、スウェーデンの通貨)という名詞は主格と所有格(属格)の2つの格があって、単数形と複数形、そして不定形と定型があります。
ちなみに、スウェーデン語では定型(英語で言うtheがついた形)を語形変化で表します。tåg「電車=train」なら、a trainならtågだけどthe trainはtåget、といった感じです。
名詞の変化形の数は8です。名詞には2つの性(通性、共性)があり、形容詞が性にあわせて変化するけど、それも2つの性の形と複数形の3つがあるだけ。
スウェーデン語の動詞はフランス語やドイツ語とは違い、主語の人称で変化しません。たとえばgå「行く」という動詞なら、主語が「私」だろうが「あなた」だろうが「彼ら」だろうが全部går。とてもシンプルです。過去形、完了形、受動態もあるものの、どれも人称変化しない
しかしフィンランド語は違います。
フィンランド語は名詞の格変化がえげつない。格だけで13種類あって、それにプラス単数と複数の違いがあります。スウェーデン語に不定形はフィンランド語にはありません。
たとえば、ウィクショナリーのページ(別窓で開きます)にあるkoira「犬」という名詞の変化表を見てみてください。その数に圧倒されるかと思います。
ただ規則的なので一度覚えちゃえば楽なのも事実。ただasiakas「客」→asiakkaalle「客に」みたいに語幹をちょっと換えるのもあるのがちょっと大変ですが。
フィンランド語も動詞は人称変化します。もちろん過去形とか完了形もあります。mennä「行く」なら、menen「私は行く」、menet「あなたは行く」、menemme「私たちは行く」という風に変化します。
形容詞は名詞の格と同じ形になります。これもスウェーデン語にはないものです。Japanilainen mies「日本人男性」を「日本人男性の」にするとき、単にmiesを属格(所有格)にするだけでなくJapanilainenも属格にしなければなりません。つまりJapanilaisen miehen「日本人男性の」になります。
……等々。フィンランド語文法の複雑さを分かって頂けましたでしょうか。
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フィンランド語は発音がシンプル!
文法が複雑な一方、フィンランド語の発音は比較的シンプルです。
フィンランド語の母音の数はスウェーデン語と同じだけれど、子音の数が少ない。音素が少ないとされがちな日本語より少ないのです。
フィンランド語はもともと、有声子音(発音する時ノドが震える子音)がほとんどない言語。つまりガ行、ダ行、バ行がありません。有声子音以外でも、チャとかシャ等の音もない。
子音が少ないだけでなく、音節の構造もシンプル。日本人の英語学習者を悩ませる「子音の連続」もかなり少ないです。英語だとscrewとかstrengthのように頻繁に2~3つの子音の塊が現れます。フィンランド語だと、そういった子音の連続はpresidenttiとかtreffitなどの比較的新しい外来語にしかありません。
大昔にスウェーデン語から入ってきたglas「ガラス」、skola「学校」、spiegel「鏡」みたいな単語はそれぞれlasi、koulu、peiliになってる。
それに母音の頻度も高くて、例えばtietokone「パソコン」とかjääkaappi「冷蔵庫」それぞれ対応する英単語と比べてみてください。
逆にいうと、スウェーデン語の発音は英語並みに複雑。
まず子音の数がフィンランド語より多い。フィンランド語にはなかったガ行、ダ行、バ行、そしてシャの音もスウェーデン語にはある。
スウェーデン語には英語にあるような子音の連続がたくさんある。strumpor「靴下」とかflygplats「空港」とか。ちなみにフィンランド語ではそれぞれsukat、lentoasemaといいます。スウェーデン語よりもこちらの方が発音しやすいのではないでしょうか。
もちろん話者数も違う
最後に、フィンランド語とスウェーデン語は、それぞれを母語とする人の数にも大きく違いがあります。
フィンランド語の話者数は500万人で、フィンランドの人口とおおむね一致。つまりフィンランド語を母語とする人は、ほとんどフィンランド国内に住んでいます。公用語にしているのも、フィンランドのみです。
一方スウェーデン語は北欧最大の言語で、話者が1000万人ほど。スウェーデンとフィンランドの両方の公用語になっています。単純計算でフィンランド語人口の2倍はいるわけです。
北欧の言語というと、「どの言語を学んだらいいのか?」という話になります。スウェーデン語とフィンランド語ではどちらが良いでしょうか。
上でお伝えした内容を総合して考えると、「特に好みがないならスウェーデン語がおすすめ」という結論になります。単純に話す人の数が多いし、デンマーク語やノルウェー語など親戚関係にある他の北欧の公用語(フィンランド語以外)へもつなげやすいから。
ただ、「どうしてもフィンランド語をやりたい」というならフィンランド語をやりましょう。その方がモチベーションが保てるはず。言語学習は継続が命なので、モチベーションを失ったら終わりです。
北欧の言語なら何でもいいというなら、スウェーデン語をおすすめします。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。以上、フィンランド語とスウェーデン語の違いを端的にご紹介しました。
フィンランドとスウェーデンはお互い隣り合った国。文化にもかなり似たところがあるように感じます。それなのに、言語にはこれだけ違いがあるのですから、不思議なものですね。
もし「フィンランド語を学びたい!」という方がいらっしゃましたら、初学者向けの教材を紹介しているのでぜひご覧ください。
MemoryCatcher / Pixabay
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