こんにちは。めいげつです。

「Vihdoin vihdoin vihdoin.」一見すると悪ふざけのような文ですが(まあ悪ふざけなんですが)、フィンランド語では文法的に正しい文です。

フィンランド語には複数の同音異義語でできた文があって、その1つがこの「Vihdoin vihdoin vihdoin.」。

今回は多少なりともフィンランド語を知っている僕が、この謎の文を解説していきますよー。

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「Vihdoin vihdoin vihdoin.」

サウナの桶とヴィヒタ
mikkooja1977 / Pixabay

Vihdoin vihdoin vihdoin.は、フィンランド語で「私はついにシラカバの枝で体をたたいた」という意味です。

この文の発音ですが、無理やりカタカナに文字起こしするなら、「ヴィヒドイン・ヴィヒドイン・ヴィヒドイン」です。

言語学の課題にありがちな、何の脈絡もない意味不明な文に聞こえますが、フィンランドのサウナ文化を考えれば特に不思議な文ではありません。

考えられるシチュエーションとしては、フィンランドのサウナにずっと入っていて、正直シラカバの枝でたたくのは気が引けていたものの、ついにやってしまいましたということかな。

「カバノキの枝で体をたたく」という行為の詳細は後ほどお話しします。

この文章は、以下の3つに分解できます。

  • vihta「カバノキの木の枝」の複数形具格vihdoin。つまり「カバノキの木の枝を使って」
  • vihtoa「ヴィヒタでたたく」の1人称過去形vihdoin。つまり「私はヴィヒタで体をたたいた」
  • 「ついに、最後に」という意味のvihdoin

便宜上この順番にしてますが、順番を入れ替えても意味は変わりません。なんせ全部同じ形ですし、フィンランド語は英語と違って語順が自由な言語なので。

では、一つずつ解説していきます。

3つの「vihdoin」の解説

vihdoin = 「カバノキの枝で」

シラカバの木の写真
forumkrakow / Pixabay

まず最初は、vihta「ヴィヒタ=カバノキの枝」の複数形具格です。

具格とは「~を使って」という意味の変化形で、日本語でいう「で」の形、英語でいうwith~です。つまり「ヴィヒタを使って」という意味になります。

元来サウナで使うシラカバなんかの枝を西フィンランドでvihtaと言い、東フィンランドではvastaと言うそうです。vihtaのほうがポピュラーな感じはあるけど。

複数形具格を作る時は、単語を複数形の弱形語幹にして、そこに-nをくっつけます。

vihtaの複数形の弱形語幹はvihdoi-(強形はvihtoi-)。フィンランド語では-aで終わる名詞は、aをoに変えて、複数性を表す-iを追加して複数形語幹を作ることが多いです。

その複数形の弱形語幹vihdoi-に-nをつければ最初のvihdoinの完成。

ちなみに弱形語幹と強形の2つあるのは、フィンランド語に子音階程交替(Astevaihtelu、Consonant Gradation)という厄介なルールがあるせい。これについては↓の記事で解説しています。

ちなみにフィンランド語では、慣用的な表現を除けば具格はほとんど使われません。代わりに、接格という形でも道具を表せるので、会話などではもっぱらこの接格を使います。

なので、vihdoinは接格の形vihdallaで置き換えることもできます。

余談ですが、フィンランド語の具格には複数形しかありません。

vihdoin = 「私はシラカバの枝で体をたたいた」

次は、vihtoa「ヴィヒタでたたく」の1人称過去形のvihdoinです。「私はヴィヒタでたたいた」という意味。

フィンランド語で-aで終わる動詞を活用させるときは、まずはこのaを脱落させます。これで語幹vihto-が出来上がります。

しかしこのまま活用という訳にはいきません、フィンランド語には先ほど登場した「子音階程交替」というルールがあります。

かなり端折って言うと、このルールに従うと動詞vihtoaの1人称形を作る時はht→hdと変化させます。よってvihdo-になりました。

そこから過去形語尾-i-、そして1人称語尾-nを順番にくっつけていきます。これで2つ目のvihdoinの完成です。

ただ、vihtoaだけで「カバノキの枝でたたく」という意味なので、わざわざvihtaの具格vihdoinまでいうのは二重表現のような気がしますが。

なんでカバノキの枝でたたくの?

フィンランドのサウナでは、先ほど紹介したヴィヒタ(ヴァスタ)という枝で体を叩く習慣があります。

ヴィヒタは、カバノキの中でもフィンランドに多く自生するシラカバ、シダレカンバ(Rauduskoivu)という木の枝を使って作られるそうです。カバノキの他にもナナカマドやビャクシンなどの枝が使われることも。

サウナで温まりつつこの枝で体を叩くことで、皮膚を清潔にしたり、血行促進や保湿などの作用があるそう。

ちなみに日本のサウナではタオルで仰いだりしますが、あれはヴィヒタとは言わず、ドイツで生まれたアウフグースという言われるものです。

vihdoin = 「最後に、ついに」

vihdoin「ついに、最後に」といった意味。英語でいうfinally。副詞なので原型そのまま使います。

接尾辞-kinをつけてvihdoinkinともいいます。意味にこれといった違いはありません。

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まとめ

サウナの中の写真
nkaminetskyy / Pixabay

これで、フィンランド語の不思議な文「Vihdoin vihdoin vihdoin.(私はついにシラカバの枝で体をたたいた)」を解説は完了です! いかがでしたでしょうか?

今回のお話を軽くまとめるとこうなります。

  • 1つ目のvihdoinは、vihta「シラカバの枝」の変化形のvihdoin「シラカバの枝を使って」
  • 2つ目のvihdoinは、vihtoa「ヴィヒタで体をたたく」の1人称過去形のvihdoin「私はヴィヒタで体をたたいた」
  • 3つ目のvihdoinは、そのまま「ついに、最後に」という意味の副詞vihdoin

重ねて書いておきますが、この順番にしたのは説明しやすくするためなので、この順番が必ず正しいわけではありません。

フィンランド語にはほかにもたくさんのサウナ用語がありますので、ご興味がありましたらフィンランド語のサウナ用語をまとめた用語集もご覧ください。

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