こんにちは。めいげつです。
日本ではフィンランドサウナのブームが来ています。2020年2月の『世界ふしぎ発見!』でもフィンランドとエストニアのサウナが紹介されました。
そんなフィンランドサウナブームの波に乗ってやってきたのが、「サウナ」に次ぐ新たなフィンランド語「ロウリュウ」……ちょっと待てよ、その表記はおかしくないか?
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ロウリュはlöyly
löylyの意味
「ロウリュ」はフィンランド語でlöylyと書きます。
löylyは、端的に言えばサウナストーブからあがる蒸気のこと。「フィンランド式」のサウナでは、熱した石に水をかけてサウナを温めますが、その時に石から昇ってくる蒸気をlöylyといいます。まあ蒸気とその熱気を含む単語かな。
サウナの熱気とか、あのリラックスする感じとかが浮かんでくるような、フィンランドらしい言葉です。基本的にはサウナでしか使いません。
ヘルシンキの南西部ヘルネッサーリ(Hernesaari)地区に2016年にオープンした、バルト海で泳げるお洒落な(そんでもって高い)サウナもLÖYLYという名前になっています。
熱した石に水をかける行為はlöylynheitto(ロウリュンヘイット)といいます。heittää löylyä(ヘイッター ロウリュア)と動詞にすることもできる。
ちなみに動詞にした時にlöylyäとäがついているのはlöylyが分格だから。数えられない名詞を目的語にするときはこの分格という形になります。フィンランド語は格変化がたっくさんある言語ですので。
あ、ちなみにサウナの中でタオルで仰いだり、シラカバの枝で体を叩くのはlöylyとは呼びません。前者に名前があるのかは知りませんが、後者はvihdonta(ヴィヒドンタ)とかvihtominen(ヴィヒトミネン)と呼ばれます。
「ロウリュウ」表記の例
別に晒し上げるわけではないですが、「ロウリュウ」表記が使われている例をいくつか。
ロウリュ(ロウリュウ)となっていたり、ロウリュウがロウリュの別称としてとされていたりしている。それ、日本語だけですから。
これはおそらく「ロウリュ」「ロウリュウ」のどちらもキーワードとして成立しているために両方含めてるのでしょ
サウナの専門サイトと思われるSauna Timeでは、基本的にロウリュと書かれていますが、一番下の方に表記ゆれが。
ただ、体感としては伸ばさない「ロウリュ」のほうが多い印象です。
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löylyは「ロウリュウ」ではなく「ロウリュ」が適切
löylyを「ロウリュウ」と書くのは、端的に行って誤りです。というのも、ロウリュ「ウ」と伸ばすのが間違いだから。
フィンランド語にも母音の長短の区別があります。ヴァンターはVantaa、エスポーはEspooといった具合で、長い母音は通常母音字を2つ続けて書かれます。例外はスウェーデン語の名前とか地名くらい(Runeberg=ルーネベリ)。
löylyは最後がyの字1つだけで終わっています。よって短母音となるので「ロウリュ」が正しいのです。Forvoというサイトにあるページでフィンランド語ネイティブによる発音が聴けますので聴いてみて下さい。
löylyの発音
löylyという単語の発音は、フィンランド語で最難関の部類です。
まずこの単語の発音は、カタカナでは絶対に正確に書き表せません。よって、「ロウリュウ」と最後の母音を伸ばすのはいけないにしても、それ以外はしょうがないかという感じ。
löyly発音が難しい理由は、その母音の組み合わせにあります。この組み合わせはフィンランド語に独特で、たぶんどの言語探しても見つからないんじゃなかろうかと思うくらいです。
先ほども載せましたが、löylyの正しい発音は、こちらのページで聞けます。多言語学習者が良く使うForvoというサイトに飛びます。
löylyは発音記号で表すと/løy̯ly/となります。lは英語とかにもあるL。その時点で正確なカタカナ音写はムリですね。
øとyはどちらもドイツ語でいうウムラウトの音で、øはエの舌の形を保ったまま唇を丸める音で、エともオともつかぬ音。yはイの舌の形を保ったまま唇を丸める音で、ユとかイにも聞こえます。
löylyのlöyの部分は、この2つのウムラウトを滑らかに続けて発音します。二重母音なのでyは少し弱めです。ヨーロッパの言語にしては日本人にとって発音が比較的簡単なフィンランド語にあって、非フィンランド語ネイティブには激ムズな発音です。同じ語族のエストニア人も難しいって言っていたくらい。
フィンランド語独特な音なのでカタカナで書くならロウリュとする他ありません。なので、ロウリュウと末尾を延ばしたりしなければオーケーといったところ。
最近は伸ばさない「ロウリュ」の方を良く聞くようになったので安心しました。
なんで「ロウリュウ」って最後の母音を伸ばしてしまうのか?
すみません。全く見当もつきません。
単純にフィンランド語の発音を知っている人がいないから間違えちゃったんでしょうが、うーん、伸ばした方が日本語的にしっくりくるのかなあ。にしては最近伸ばさない方が主流になってきている感あるけど。
もしかすると、「リュ」で終わる単語が日本語にないからかもしれませんね。「主流」「惣流」「九頭竜」のように、最後の音節に「りゅ」がつく単語は基本的に「~りゅう」と伸ばすので。
まとめ
いかがでしたか? 今回は「ロウリュウ」ではなく「ロウリュ」と書こうねという話をしました。
フィンランド語は字面が可愛く響きが不思議な、魅力的な言語です。その一方で文法はかなり複雑なため、悪魔の言語と呼ばれることもあるようです。
そんな天使と悪魔をあわせせ持ったようなフィンランド語を学んでみたくなったら、以下の記事で教材を紹介しています。無料と有料、オンラインから紙の会話集まで揃ってますよ。
Thumbnails Image by EsaRiutta / Pixabay
JS
以前コメントさせていただいた者です。
löylyは私には「レウル」と聞こえました。エとオの中間の音なのでそう聞こえたかもしれません。
サウナで、白樺の枝で体をたたくという習慣も知らなかったのですが、それに名前がついているとは面白いですね。
記事の中で紹介してくださったForvoというサイトは、アイルランド語もたくさん載っていました。これまでアイルランド語専用の発音データベースを使っていたのですが、時々登録されていないもの(語の基本形は載っていても、活用形が一部載っていないなど)があり、Forvoも併せて使っていけそうです。
ロウリュではなくロウリューとなってしまうのは、きっと発音を正確にカタカナで表すのは無理で、多少ずれてしまうのは仕方ない、どうせずれるのなら日本語的に収まりのいいほうにしておこうという感じなのでしょうか?
私がアイルランド語勉強しているとき、発音をノートに書き留めたりするのですが、その場合今回の単語は「ロェゥリィュ」とか書いてしまいそうです
いつも興味深い記事ありがとうございます
めいげつ
JSさん
コメントありがとうございます。
そうですね。löylyは、日本人の耳にはロウリュよりもレウルに聞こえるかも知れません。それでもロウリュとしたのはおそらく「レウル」のように書いてもlöylyというスペルが思い浮かびづらいからでしょうか。
フィン語にも日本語にも母音の長短の区別はあるのでロウリュウにした方が自然かどうかは疑問が残りますが、それでもロウリュウと書いてしまう人が一定数いる以上日本語の音韻にはこちらのほうが収まりがいいのかも知れませんね。
しかしカタカナは書き表せる音が圧倒的に少なくて、けっこう不便ですね。これも音素が少なく音韻構造が単純な言語の宿命でしょうか笑
Forvoは便利ですね。僕もずっと愛用しています。特にゲール語系のような表記に特徴のある言語の場合はなおさらかと思います。