こんにちは。明月です。
今回の記事はまたテイストの違った内容になってます。その名もブック・レビュー。つまり読書感想文です。
書評っていうほど大層なものではなく、あくまで本を読んで感じたこと、気になったことをさっとまとめておく備忘録のようなものです。読書メモをつけることで読書の有益性がかなり上がるという話をよく聞くので、こんな風に小さなことから始めようと思います。
今回読んだ本は、タイトルにもあげました鈴木優美著『デンマークの光と影』。敬称略。少し前にネットサーフィンしていたらたまたま見つけた本で、それ以来ずっと気になっていたので読んでみました。
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著者情報をほんの少し
著者の鈴木優美氏はこの本の刊行当時(2010年12月)はデンマークのロスキレ大学に在学されていて、もともと「デンマークのうちがわ」というブログを運営していたそうです(更新は2014年12月で止まったままですが)。
見たところデンマークの社会福祉や移民政策などについてかなりぎっしり書いてあるので、暇があったら読んでみようと思います。
いい面ばかりが高福祉北欧社会のウラ側
日本では北欧社会というと、結構いい面が前面に出されて報道されています。
社会福祉が充実していて学費が無料(それどころか大学生は給付型奨学金ももらえる)、医療も無料、失業保険などのセーフティネットが充実している。
その代わり税金がえらく高いけど国民の幸福度は高いというイメージがあり、実際にそうなのだと思います。政治の透明性や、男女平等の進捗具合などのランキングでは常にトップに来る。
ある意味「理想」の、著者の言う「バラ色の社会」といったイメージを持っている人が多いかもしれません。
ただ、日本のメディアではそういう「いい面」ばかりが全面に押し出されていて、税金が高い以外のマイナスな面をあまり聞かない気がします。
実際、デンマークでも、当然のことですがネガティブな面はあります。
税金が高いのもそうですが、たとえば政府支出を減らすための今までの手厚い福祉政策から一転、新自由主義的政策へ段階的に移行しようとしていること。最近聴いたデンマーク人の幸福さを扱ったポッドキャストでも言われていましたが、稼いだ分の半分が税金で持ってかれるのはとても大変そうです。
あとは厳しすぎる移民政策(これはデンマーク在住の日本人がよく言及してます)や非デンマーク人への排他的な政策などなど。非デンマーク人がデンマーク国籍を取得、そして維持するのはかなり大変なようです。
本書を読んで気になったポイントをいくつかあげてみます。
まずは教育について。
僕は私立大学のかなり学費が高い学部に属していて、少しですが学費を自分で賄っているので、大学院までの授業料が無料だという北欧の教育制度にはかなり関心があります。
その教育に関して気になったのは、高等教育機関に対する「計量書誌学的研究指標」というもの。これは研究者の業績を数値化して評価するもので、デンマーク語で論文を書くと1ポイント、本を一冊執筆すれば5ポイントといったふうにポイントを稼いでいって評価をあげるやり方。
ちなみに英語で書いた場合はそれぞれ3ポイントと8ポイント。確かに使用者が多い英語で論文を書くことを評価したい気は分かりますが、ここまで英語偏重なのもいかがなものか。
僕も大学の勉強で英語を頻繁に使いますが、あまり母語を軽視するような政策は支持できません。現実に不満もあがっているようですし。
それ以外にも、「職能に直接結びつく研究」への優遇措置。まあ政府は子どもが大人になるまで多大な税金を使っているわけですから、早く仕事を見つけて税金を納めてほしいと思うわけですよね。文系学生の僕にとっては耳の痛い話です。
同じ理由で日本のような、高校卒業したらすぐ大学→大学卒業したらすぐ就職とエスカレーター式にすすむやり方を支持しているのだとか。
そんなエスカレーターの上を生きてきた僕としては、自分のキャリアをゆっくり考えられるのが北欧の教育制度のいいところだと思っています(それ故「就活」を拒否している)。なのでもしデンマークも日本のようになってしまったら少し残念です。
自立を促す子供の教育。「自己責任」という言葉はデンマークにもあるようです。
日本で「自己責任」というと「自業自得」というニュアンスが強く貧困者に関する議論でよく聞かれます。
デンマークでの自己責任はまた違い、「他人/公への必要以上に拡大した依存心を減らして、自分でできることは自らの力でかなえるべき(本書108頁より抜粋)」であるというらしく、つまり必要な分は他人や国を頼っても良い、そのための社会福祉であると言っているような気がします。
そして他人に頼るべきでない部分、ここでいう「必要以上」にあたる部分を自分の力で何とかできるように子どもの頃からの教育がされている。
僕は日本の自己責任論があまり好きではないし、一概には言えませんが日本の教育が自立した大人を育むものだとはあまり思えないので、ぜひここは見習いたいポイントだと思います。
労働者と職業訓練について。デンマークでは失業した時に失業保険や就労支援が受けられるフレキシキュリティ(flexicurity = 柔軟性flexible + 安全security)という概念があるらしいのですが(筆者は初めて知りました)、デンマークの労働市場はそのモデルに則ったものになっているみたいです。
フレキシブルとは雇用者が労働者を容易に雇用・解雇できるということで、セキュリティは労働者が解雇されても手厚い失業手当があるため次の就職先を探しやすいということでしょう。
そんなフレキシキュリティ社会で今提案されているのが「フレキシケーション(flexication = flexible + 教育education)」とか「モビケーション(mobication = 流動性mobility + education)」という言葉。
これは解雇された後ではなく解雇された時に備えて、臨機応変に対応するために職業訓練を受けておくということ。
詳細なことは本書には書かれていませんが、これからの時代を生きる私たちにとってかなり示唆に富む概念だと思います。特に大人の大学進学率が非常に低い日本にとってはね。
と、本を読んで思ったことや気になったポイントをつらつら書いてみました。
本書は税金だったりとか失業手当とか今までそんなに関心のなかった分野の話が多かったので、読むのに結構時間がかかりましたし、完全に理解したとも思えませんが、デンマーク社会を色々な面から垣間見ることができて面白かったです。
だたこの本が出たのは2010年なので、当時と変わった部分もあるでしょう。その辺りのことについては今後も関心をもっていきたいと思います。
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