先日ふと思ったのが、日本語を学んでいるフィンランド人学生で「フィンランド」を「フィンランド(ンとラに高いトーン)」と発音する人が多いということ。

常に第1音節にアクセントが来るフィンランド語話者にとっては「フィンランド(フィに高いトーン)」の方が発音しやすいだろうになーと不思議に思っていました。

そしてこの前、なんとなく腑に落ちる答えを考えついたのでシェアしたいと思います。「フィンランド」の発音って他の「~ランド」系の国名と比べて少し変わっているんです。

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「~ランド」の付く国名

世界には「~ランド」で終わる国の名前がいくつかあります。

  • アイスランド
  • アイルランド
  • スワジランド(現在は「エスワティニ」ですが)
  • ニュージーランド
  • フィンランド
  • ポーランド

と、旧国名のスワジランドを併せても6つ。正直もっと多いかと思っていました。

また、正式に国ではない&国としてあまり承認されていない例として、

  • イングランド
  • スコットランド
  • グリーンランド
  • ソマリランド

ちなみに、英語だとランド系の名前はもう少し多くなります。

  • Netherlands(オランダ)※複数形
  • Switzerland(スイス)
  • Thailand(タイ)

じつはドイツ語にも~land系の国名がけっこうあり、

  • Deutschland(ドイツ)
  • Estland(エストニア)
  • Griechenland(ギリシャ)
  • Lettland(ラトビア)
  • Russland(ロシア)
  • Weißrussland(ベラルーシ)

の6つ。dは無声かしてtの発音になるので「ランド」というより「ラント」になりますが。

ちなみにドイツ語では「スイス」がSchweiz、「ポーランド」がPolenになるのでランド系からは外れます。

「フィンランド」と「ポーランド」の共通点

そして本題。みなさんは「フィンランド」と「ポーランド」の二つの名前の発音における、ある共通点は何でしょう。

その共通点は、他の「~ランド」という名の付く国名や地名の発音を比べてみると見えてきますね。

上に挙げた6つの国名を、手元にあるNHKの『日本語アクセント辞典』(少し古い98年版です)で発音を確認してみます。以下、表記方法を一部改変しています。

  • イスランド
  • イルランド
  • ワジランド
  • ニュージーランド
  • フィンランド あるいは フィンランド
  • ポーランド あるいは ポーランド

上線は、その部分が高いトーンで発音されることを表しています。

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上に挙げた6つの国名のうち、フィンランドとポーランドだけ最初の母音にアクセントがくる(=高いトーンで発音される)

「ランド」の直前の母音だけにが高いトーンで発音されるんですよね。みなさんもご自身で発音してみてくださいな。

そしてフィンランドとポーランド以外のランド系の国名は、2つ目のモーラから「ランド」の「ラ」までが高いトーンで発音されるということ。

モーラ(mora)とはいわゆる「拍」と同じで、通常は仮名1つ分の長さです。日本語の音韻論でよく使われます。

対して音節は、核となる母音1つに子音が1つか、あるいはいくつかついたものをいいます(子音がついていない音節もあります)。

例えば「さん」とか「フィン」は2モーラですが、音節で数えると1音節。

英語やフランス語などは音節言語と呼ばれ、極端な例をあげればstrengthはたくさん子音がついていても母音は1つだけなので1音節です。

また、これは今まで知らなかったんですが、フィンランドとポーランドも他の4ヶ国と同じように発音することも許容されるようです。

僕は個人的に、今までそう発音する日本語ネイティブに会ったことはないのですが……

せっかくなので国名ではない「~ランド」も調べてみました。こちらも『アクセント辞典』から、一部表記方法を変更したものを載せています。

  • ングランド
  • リーンランド
  • コットランド
  • ニューファンドランド
  • ップランド
  • マリランド
  • ントランド
  • ートランド
  • ディズニーランド

ざっと思いついたのはこれくらい。

印の項目は『アクセント辞典』に記載がなく、僕のネイティブ感覚と他の人の発音を観察したのを頼りに書いたものなので、異論があればぜひどうぞ)

この中だと「イングランド」だけがフィンランドやポーランドと同じ異端児のよう。

というわけで、「~ランド」系の国名の大多数は第2モーラからラまでを高いトーンで発音するパターンなようです。つまり先ほど言及したフィンランド人学生の「フィンランド」の発音と同じパターンですね。

というわけでここで答え合わせ。「ランド」がつく国名の仲間外れとは、フィンランド、ポーランド、イングランドでした。

なので、先ほどのフィンランド人学生がフィンランドという発音をしてしまうのかという問いに対する答えは、おそらく大多数のパターンに従ってしまったからだと思われます。いわゆるアナロジーというやつですね。

「アナロジー」とはざっくり言うと、とある単語の語形変化とか発音のルールを、そのルールが適用されないはずの別の単語に当てはめてしまうことです。

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なぜフィンランド、ポーランド、イングランドだけ発音が違うのか?

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考えられる理由は、おそらく日本語名の構造でしょうか。

見るべきは「フィンランド」と「ポーランド」の「ランド」の前の部分。フィンランドもポーランドも「ランド」の前にあるのは1音節だけです。おそらくこれが条件の1つ。

そして「フィン」は「ン」とう鼻音で、「ポー」は伸ばす音で終わっています。つまり「ランド」の前には短い母音ではなく鼻音か長い母音がある必要がある。

多数派の方を見てみるとこれに当てはまる地名は1つもありません。

やったー、これで分かったぞ。と思いきやここで立ちはだかるのが「イングランド」。

イングランドも上の2つと同じ発音パターンですが、上記の条件に全く当てはまりません。

そしてもう一つ引っかかるのが、日本語は音節言語ではなくモーラ言語であるということ。なので音節を主体とした考え方は正直的が外れているように感じます。

日本語にもシラビーム方言といって音節主体の方言もありますが、何分極少数である上に地域も限られているので……

こうなると完全にお手上げ。いい線行ってると思ったのですが、そう上手くはいかないようです。

以上、ランドがつく国の名前の発音について考えたことをまとめました。

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