こんにちは。めいげつです。

近年ヨーロッパでは、中東での情勢悪化が原因でもの凄い人数の難民が押し寄せています。とりわけ北欧の中では、スウェーデンは難民受け入れに寛容的だったこと有名ですし、一方デンマークは非常に厳しいことでも知られています。

難民を受け入れるのは良いですが、肝心なのは彼らを受け入れた後のこと。現地社会に入っていけるように環境を整え、サポートをしなければいけません。

現地社会に溶け込むうえで重要なのが言語。言語を上手く使えるようになれば、社会統合への大きな一歩となります。難民受け入れに関してはスウェーデンやデンマークの陰に隠れがちなフィンランドですが、ここには両国にはない、フィンランド特有の奇妙な事態になっているようです。

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「バイリンガル国家」フィンランド

フィンランドは「バイリンガル国家」と呼ばれます。

その理由は、「国の公用語が2つある」から。フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語での2つ。

市町村レベルでは、ヨーロッパ唯一の先住民であるサーミ人の言語「サーミ語」が公用語となっている場所もあります(サーミ語には数種類ありますが、フィンランドで話されているのは主に3種類)。

フィンランドのバイリンガリズム(2言語併用状態)は憲法にも書かれています。フィンランドではフィンランド語とスウェーデン語は対等な地位を持っていて、どちらの言語でも公的機関へアクセスできることが保障されています。

Jokaisen oikeus käyttää tuomioistuimessa ja muussa viranomaisessa asiassaan omaa kieltään, joko suomea tai ruotsia, sekä saada toimituskirjansa tällä kielellä turvataan lailla. Julkisen vallan on huolehdittava maan suomen- ja ruotsinkielisen väestön sivistyksellisistä ja yhteiskunnallisista tarpeista samanlaisten perusteiden mukaan.

自身の言語、すなわちフィンランド語あるいはスウェーデン語を法廷及びその他の公的事情において使用する権利、及びその言語で公的文書を入手する個々の権利は法律によって保障される。公共政策は国内のフィンランド語およびスウェーデン語話者の文化的及び社会的なニーズを同様の基準に基づき満たすものでなくてはならない。

フィンランド司法省『フィンランド共和国憲法』 第17条より引用 筆者拙訳

※僕はスウェーデン語ができないのでスウェーデン語版の憲法は割愛します※

このように国家としてはバイリンガルなフィンランド。しかしストックホルムのソーデルトーン(Södertörn)大学のニーナ・カールソン(Nina Carlsson)氏が『Navigating Two Languages – Immigrant Integration Policies in Bilingual Finland』という論文の中で面白い指摘をしていたのでシェアします。

バイリンガルか、モノリンガルか

ヨーロッパ諸国には大勢の難民が押し寄せています。それはフィンランドも例外ではありません。

今まで受け入れにあまり積極的でなかったフィンランドも、2016年から人の難民の受け入れ数を増加させました。

2016年に実際に「難民」として保護されたのは4,586人で、在留許可が発行されたのは3,159人。前年比でどちらも4.1倍ほどです(具体的な数値についてはフィンランド統計局のサイトを参照ください)。

国内の言語政策は、当然その国にやってくる移民や難民たちにも影響します。彼らは基本的に、受け入れ先で使われている言語を学習しなければなりません(たいていの場合国の公用語か多数派の言語)。

フィンランド語とスウェーデン語が対等な地位を保証されていることは、先ほど言及しました。そんなフィンランドにたどり着いた難民たちがフィンランド国籍を取得するためには、フィンランド語かスウェーデン語のどちらか(あるいはフィンランド手話かフィンランド・スウェーデン手話)の充分なスキルを証明する必要があります。

さすがは2つの言語が対等に扱われているバイリンガル国家。ですが、ここで「あれっ」と思いませんか。

フィンランド語とスウェーデン語が対等であり、フィンランドの公的機関においてはどちらの言語も等しく使われるべきとされているということは、言ってしまえばどちらか1つの言語を習得すれば済んでしまうということ。

フィンランドのバイリンガリズムは「どちらか片方の言語の話者が不利を被ってはならない」といったスタンスなので、「両方の言語を習得しなければならない」という状況はあってはならないのです。

よってどちらか一方の言語のコースをとってしまうと、もう一方の言語コースをとることは経済的理由から基本的に許可されません。

なので、たとえスウェーデン語優勢地域に住むことになった人がフィンランド語のコースを受講した場合、スウェーデン語のコースは受けられなくなります。

つまり移民や難民たちは必然的に1つの言語のみを習得することになり、1つの言語で事足りるということになります(経済的な余裕があればもう片方の言語も学べましょうが)。まさにモノリンガリズム(monolingualism、単一言語使用)です。

「2つの公用語が等しい地位にある」というある意味バイリンガリズムのお手本のような考え方が、このモノリンガリズムの原因となっていると考えると、非常に興味深いパラドックスではないでしょうか。

「バイリンガル国家」ともてはやされるフィンランド。しかしそのバイリンガリズムがモノリンガリズムを産み出している一面がありました。これを「問題点」ととるかどうかは議論の分かれるところだと思います。

しかし、フィンランドの2つの公用語の対等な地位が、翻ってモノリンガリズムを引き起こすことになっているということは、興味深い話ですね。

参考文献

Finnish Immigration Service(フィンランド移民局). Language Skills(言語能力). Retrieved at https://migri.fi/en/language-skills

Carlsson, N. (2017). Navigating two languages – immigrant integration policies in bilingual finland. Journal on Ethnopolitics and Minority Issues in Europe, 16(2), 41-66.

Ministry of Justice Finland(フィンランド司法省). (1999). Perustuslaki(憲法). Helsinki: Oikeusministeriö [Ministry of Justice Finland]. Online version: https://www.finlex.fi/fi/laki/ajantasa/1999/19990731

Tilastokeskus(フィンランド統計局). Population(国民). Retrieved from https://www.stat.fi/tup/suoluk/suoluk_vaesto_en.html

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