こんにちは。めいげつです。

ほぼ「標準語」を話す自分としては、方言って非常に興味深いです。

たとえば小笠原方言とか。あまり詳しく知っているわけではないのですが、アメリカの統治下で日本語と英語が混ざって「私」のことを「ミー」と呼んだり、日本語の中に英語が混じったような話し方をするという話を聞いたことがあります。こんな風に特に少数の方言を見てみるのはとても興味深いです。

あとは自分が勉強している外国語の方言とか。たとえば僕は河口域英語とか、ケベックのフランス語が大好きです。何たってあの耳に残る発音。世で「標準」とされているのとは違う発音っていうのが何だかワクワクします。

で、今日のテーマはとある言語の変種のお話です。みなさんは「クヴェン語」という言葉をご存知でしょうか? ノルウェーで話されている言葉の一つなんですが、実はフィンランド語と非常に近い関係のある言語なんです。

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「クヴェン語」とは?

クヴェン語とは、フィンランド語の一種でノルウェーの北部、フィンマルク県(ノルウェーの一番北にある地域)で話されている言語です。「フィンランド語の一種」とは書きましたが、ノルウェーではフィンランド語とは別の言語で少数言語として認められています。

もともとスカンジナビア半島北部、それこそ今でいうノルウェーのフィンマルク県あたりやスウェーデンの一部にもフィンランド語(と同じ系統のことば)を話す人々は住んでいました。フィンランドという「国家」ができるずっと前の話です。それがロシア帝国がフィンランドの国境を画定したことによってその人たちはフィンランド語系の言葉を話しながらも「フィンランド人」ではなくなり、今日の「クヴェン人」やスウェーデンに住むメアンキエリ(フィンランド国境付近に分布するフィンランド語の一種)を話す人々が生まれます(もちろん概念上の話です)。

クヴェン語はフィンランド語と同じ祖先から発生した非常に近い隣人のような言語ではありますが、やはり遠く離れているため少なからず変化が起きたり、ノルウェー語の影響を受けたりとで標準フィンランド語とは違うところもあります。つい先日、クヴェン語の国名をリストアップしたサイトを偶然見つけたので、今回はフィンランド語との違いを「国の名前」という観点から見ていきます。

ちょっとスペースが足りなかったので、日本語の国名は英語の欄に押し込む形になってしまいました。日本語の列を作ってしまうと表が美しくなくなっちゃうので……

クヴェン語の国の名前

ヨーロッパ

ではまず近隣のヨーロッパ諸国から。

クヴェン語 フィンランド語 英語
(日本語)
ブークモール・ノルウェー語
Eesti Viro Estonia
(エストニア)
Estland
Franska Ranska France
(フランス)
Frankrike
Liettua Lietuva Lithuania
(リトアニア)
Litauen
Öystäriikki Itävalta Austria
(オーストリア)
Østerrike
Oolanti Ahvenanmaa Åland Islands
(オーランド諸島)
Åland
Polen Puola Poland
(ポーランド)
Polen
Ruotti Ruotsi Sweden
(スウェーデン)
Sverige
Ryssä/Venäjä Venäjä Russia
(ロシア)
Russland
Spaania Espanja Spain
(スペイン)
Spania
Tuiska Saksa Germany Tyskland
Tanmarkku Tanska Denmark
(デンマーク)
Danmark
Valko-Ryssä Valko-Venäjä Belarus
(ベラルーシ)
Hviterussland
Vatikaaninstaatti Vatikaanivaltio Vatican City
(ヴァチカン市国)
Vatikanstaten

ヨーロッパ諸国の名前はフィンランド語との差異が最も際立っています。

例えばエストニア。エストニアのことをクヴェン語ではEesti(エースティ)と言うようです。これはエストニア語の名前Eestiからそのまま借用したんでしょうね。一方フィンランド語ではViro(ヴィロ)と全く似ても似つかない名前を使います(これはエストニア北東のVirumaaという地域から来ているようです)。

なかでも目に付いたのがオーストリアを意味するÖystäriikki(オュスタリーッキ?)。フィンランド語のItävaltaも英語や日本語の名前と似ていませんがクヴェン語のはさらに違っていて面白いなと思いました。これは表にも載っているノルウェー語のØsterrikeから直接取り入れられたのだと思います。ちなみにオーストリアのドイツ語名はÖsterreichで「東の国」という意味で、フィンランド語の名前もノルウェー語の名前もそれを直訳したものだと思われます。

上の2つの他に、フィンランド語と全く違うのはOolanti(オーランド諸島)Ryssä(ロシア)、Tuiska(ドイツ)。これらはノルウェー語の名前と似ているので、ノルウェー語から直接とったためにフィンランド語から離れてしまったのでしょう。しかし、ドイツはTuiska、Saksa、Germany、Tyskland、ドイツ(doitsu)と言語によって名前にかなり違いがあるのが面白いですね(フランス語だとAllemagne、ドイツ語だとDeutschland)。

Vatikaanistaattiのstaattiも完全にノルウェー語由来ですね。ですが綴りがフィンランド語にもありそうな感じを出しています(特にヘルシンキ方言)。

中東・アフリカ

クヴェン語 フィンランド語 英語
(日本語)
ブークモール・ノルウェー語
Elfenbenrannikko Nousunluurannikko Côte d’Ivoire / Ivory Coast
(コートジボワール)
Elfenbenskysten
Keki-Aafrikan Republiikki Keski-Afrikan tasavalta The Central African Republic
(中央アフリカ共和国)
Den sentralafrikanske republikk
Yhystynheet Arabiemiraatit Arabiaemiirikunnat The United Arab Emirates
(アラブ首長国連邦)
De forente arabiske emirater
Zambia Sambia Zambia
(ザンビア)
Zambia

まず気になるのはコートジボワールを意味するElfenbenrannikko。エルフェンベンランニッコ、でしょうか。見事にノルウェー語とフィンランド語が混在しています。elfenbenがアイボリーつまり「象牙」で、rannikkoはフィンランド語と同じ形で「海岸」。ノルウェー語とフィンランド語のダイグロシア(2言語の併用する状態)がアフリカの国の名前に現れるなんて興味深い話です。どうしてどちらかにしなかったんでしょうかね。ノルウェー人が持ってくるまで象牙の存在を知らなかったとか。

中央アフリカ共和国という意味のKeski-Aafrikan Republiikki(ケスキ・アーフリカン・レプブリーッキ)も固有名詞の微妙な違い(Aafrika vs. Afrika)と、一般名詞の違い(republiikki vs. tasavalta)が強く表れています。republiikkiもなんかフィンランド語のヘルシンキ方言みたい。

アラブ首長国連邦は方言程度の違い、と言った感じでしょうか。「結束した」という意味のYhystynheet (ユフテュンヘー)はフィンランド語のYhdystyneet(ユデュステュネー)と、Arabiemiraatit(アラビエミラーティッ)はArabiaemiiri(アラビアエミーリ)に通じています。ただフィンランド語の名前にはYhdistyneetかないことが気になります。

ザンビアってフィンランド語だとサンビアなんですね。知らなかったです。ドイツ語でもSambiaですがこれでザンビアって読むんですがそのまま持ってきちゃったのかな。うーん。

アジア・オセアニア

クヴェン語 フィンランド語 英語
(日本語)
ブークモール・ノルウェー語
Fidžisaaret Fidži Fiji
(フィジー)
Fiji
Kambotsa Kambodža Cambodia
(カンボジア)
Kambodsja
Kasakstan Kazakstan Kazakhstan
(カザフスタン)
Kasakhstan
Kirgisistan Kirgisia Kyrgyzstan
(キルギス)
Kirgisistan
Öystä-Timor Itä-Timor East-Timor
(東ティモール)
Øst-Timor
Usbekistan Uzbekistan Uzbekistan
(ウズベキスタン)
Uzbekistan

アジアの国名はすごく微妙な違いが目立ちます。

zがsになっていたり、dž(ヂャと発音)の代わりにtsだったりと。Öystä-TimorとKirgisistanはノルウェー語の影響でしょう。まあ、キルギスはどの言語も似通っているのでどういうルートを辿ってきたのか分かりづらいんですけどね。

 

さて、今回はフィンランド語の遠く離れた隣人、クヴェン語の世界を国の名前とうい観点で覗いてみました。クヴェン語の国名の全リストはこちらのサイトから見られます。全部ノルウェー語ですが英語が少し分かれば問題ないでしょう。

自分の学んでいる外国語の方言や変種をのぞいてみると、小さな(たまに大きな)違いが見つけられて面白いです!

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参考文献・ウェブサイト

Bolstad, E. (n.d.) Liste over alle land i verda. Available at https://www.erikbolstad.no/geo/verda/land/

田欣吾. (2008). 「言の葉」のフィンランド―言語地域研究序論. 東海大学出版会.